03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(10) 陸橋から電車を見下ろす。まだ肌寒い三月。一人の部屋に戻るのが嫌で、ここで酒を飲んでいる。「何、飲んでるんですか」 あたたかい声がした。振り向けば春がいた。 つやつやとした茶髪から覗く、まあるく大きな耳。柔らかくこちらを見上げる瞳。その薄い...2022.04.0303_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(9-2) ①(人物) インターホンのベルが鳴る。画面の中に二人の女が立っている。 五年前に大学への近さだけで選ばれた築三十年、1K二〇平米、三階、バス・トイレ別、月7万円の部屋は彼女の入居前に一通りリフォームされて、内装には築年数を感じさせない清潔さ...2022.03.2203_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(9-1) 問一「なんか、喋んないですよね」「え?」「いつも黙っちゃうじゃないですか」「いや、そう?」「そうですよ! え、自覚ないんですか? いまも黙ってましたよね?」「いや、でも、喋るのも変じゃない?」「別に変じゃないですよ」「いや、何喋ればいいの」...2022.03.0603_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(8) 【問一:明示的な視点の切り替え】 神谷内香織は、目を開けているのか閉じているのかわからなくなった。まばたきをして、かっと目を見開いてみる。すると少しの間は確かに目を開けていると思えるのだが、数歩進むうち曖昧になる。そんなとき、前に伸ばした手...2022.02.1303_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(7-3) 【問四(潜入型の語り手)】 神谷内香織は湯に身体を沈め、息を大きく吐いた。急に始まったこの二人旅、いきなり知らない土地で宿無しになりかけ、なんとか見つけた宿は廃屋同然。どうなることかと緊張続きだったところから、存外と感じの良い露天風呂に浸か...2022.01.3003_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(7-2) 【問二(遠隔型の語り手)】 一灯の明かりだけが照らす小さな露天風呂に、二人の若い女がいた。 一人の女が湯に入るところだ。もう一人に遠慮するような間柄ではないらしく、肌を露わに湯船に足を踏み入れる。身を浸しながらその表情はもう緩んでいる。湯の...2022.01.0903_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(7-1) 【問一(三人称限定視点)①】 香織が湯に身体を浸すと、熱が染みた。全身の力が抜け、思わず声が出そうになって、けれども出てきたのは長い吐息だけだった。 夜闇に立つ湯気の中、手を伸ばせば届く距離で、燈花は目を閉じている。いつも通り涼しい顔だけれ...2021.12.1203_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(6) 【三人称/全体を現在時制】 老婆はお守り代わりの銃床を撫で、闇に沈む相手を睨む。狩人の目だ、いまも変わらぬ、と闇から声。違うね、老いれば変わる、と彼女は答える。もう銃なんて使えない。出されたカードから指定枚数を選びデッキとする。節くれ立った...2021.11.2003_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(4) 問一: 目を閉じ、息を吐ききる。刹那、闇を見切った男の足元、蛇が落ちて転がった。切ったのだ。鋭い切っ先の輝きに、蛇たちは殺意の叫びを向ける。緋色に切れ込む魔眼も、男が目を閉じていれば力を顕さない。蛇たちは一斉に毒牙を光らせ、堰を切ったように...2021.10.1003_作品
03_作品『文体の舵をとれ』練習問題(3)追加 追加問一:何がヒーローやこれよう言わんわ。こんな剣ほんま重たいであかんわ。狭くてかなわんし何や空気悪いわ。なんやねんこの15て浮いとるん。歳ちゃうなもう今年19やさかい。なんか言うてえな聞こえとるやろ。そなわかってるレベルいうんやろ。そのヒ...2021.09.2503_作品