『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』 宮澤伊織

 ずっと気にはなっていました。怪異とかネットロアとかを扱っていて百合らしいと。それ好きなやつじゃないかと。都市伝説を扱って百合を目指した小説を書いていたときに方向性が近いと言われたこともありました。それなのに今まで読まなかったのはなんとなくWeb上の宣伝の方向性が気に入らないという完全に私怨な食わず嫌いだったのですが、そういう食わず嫌いは良くない、ちゃんと読んでから判断すべき、という天使の人格がKindle版50%オフセールで殴られたので買って読みました。

 残念ながら微妙だなと感じました。これは題材が好きだからハードルが上がっている可能性が高いのですが、なんかネットロアとりあえず出しただけで生かし切れてない感(4話の裏世界の怪異たちへの解釈はちょっと面白かったのだが、その理屈だと海兵隊がきさらぎ駅に到着はしないだろとか思ってしまって、この作りの感じだとその辺を続刊で回収……とかもあんまり期待できないなぁと)、あとは小説として上手く感じないというか、多分これ、アニメで作画動画が良ければ楽しいと思うんですが、小説という媒体で読んだときにあんまり良さがないんじゃないかなぁと思いました。心情とか。あとはそれこそネットロアってテキストだしそのへんなぁ、とか。多分題材が好きだからハードルが上がってるだけだな……。アニメを見ようかと思います。→(追記)アニメもnot for meだった……

『アンソロジー 『破戒』 Breaking Knox』 たけぞう他

 第三十一回文学フリマ東京にて入手

 十人の執筆者でノックスの十戒を一つずつ破るアンソロジー。かなりキャッチーなアンソロジーテーマですし、多くの人に読んでもらえるテーマ設定であることは間違いない、企画の勝利です。ただ、基本的にはハードルが上がって難しいレギュレーションだと思います。だってノックスの十戒って破ったらアンフェアでつまらなくなるぞっていうルールなわけで、普通に破ったら単に面白くなくなります。ルールを破ってる部分を超える何か光るものがないといけないわけで、それってものすごいハードルだと思います。しかしそのハードルに立ち向かいアンソロジーとして完成させたのは素晴らしいと思いました。ちなみに小説同人誌で箱に入ってるのは初めて買いました……。すごい気合いだ。

 以下、個人的に面白かった(ルールを破ってる部分を超える光るものを感じた)五作について個別の感想です。ネタバレあります。

『探偵が遅すぎる』たけぞう

 違反しているのは「犯人は物語の当初に登場していなくてはならない」か。この違反を面白くするのは十の中で比較的難易度が高いと思いますが、しかしそのハンデを覆す面白さとしてホームズ役とワトソン役の入れ替わり叙述トリックをうまく使い(もちろん普通に引っかかりましたが、思い返せばこの叙述トリックで有名な作品を思い出したりした。偽ホームズ役のあからさまな変人感を出して、っていう)、推理をひっくり返し、ボドゲのガジェットも上手く使い、と、色々と良い感じにまとめていてすごい! タイトルも上手いし。ちゃんと本格をやってる人が書くやつですね(僕はちゃんと本格をやっていないので適当に言っています)。とても面白かったです。本書で一番良かった。そしてこの方がアンソロ主宰というのも、強い!

『オリオン』もうエリ

 なんか青春というか百合というか、そういう雰囲気が良かったです。違反しているのは「未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない」で、純粋にミステリとして読むと構成に無駄があるように感じられますが(別荘に行くまでが長いとか)、しかしその無駄パートで主人公の屈託を書き連ねていくことで上手く個性が出せていると思いました。

『最害』カリフォルニアデスロールの野良兎

 違反しているのは、読んだときは「探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない」なのかと思ったのですが、あとがきによれば「サイドキック(ワトスン役)は自分の判断を全て読者に知らせなくてはならない」だそうです。ん、それって主人公がワトスン役っていうことなのか? それとも犯人がワトスン役なのでっていうことなのか? というあたりがレギュレーション的にモヤモヤしたものの、話自体はちゃんとミステリであり自分の好みで、面白かったです。

『白鼠』アルギル・ラッセ(阿木良介)

 いきなりSFっぽい設定。かと思えば始まる怒濤の、こう、それ系の設定語りとそれ系の会話。このドライヴ感が尖ってて好きですね。違反しているのは「犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない」ですが、それをメインに据えず、それとなくかつ堂々と破っているのが上手いなと思いました。最後ちょっとそこで終わるの!?感あるんだけど、それを押し切るメインガジェットと怒濤の冒頭だったので良かった。

『日暮海音の金欠』そうしろ/安藤壮史朗

 違反しているのは「探偵方法に超自然能力を用いてはならない」。これに違反しながら面白くしようと思うと、メタ的な話だったりアンチミステリ的な破調方向にいくわけですが、それでいて会話劇によって組み立てられた日常の謎が普通に面白く、最後にしっかりと能力のネタも回収して上手くまとめたのはやられたという爽快感がありました。『探偵が遅すぎる』で本書で一番良かったと書きましたが、この作品が自分としては本書で二番目に良く、また一番良かったのと二番目に良かったのがこれだけ違う方向性というのも、一冊のアンソロジーの楽しさが存分に感じられました。

睡眠スコアバトルSF小説『米の眠り姫』

 まず睡眠スコアバトルっていうのはね……(経緯を丁寧に説明する幼馴染みヒロイン)

 私は経緯を丁寧に説明する幼馴染みヒロインにはなれないのでこのあたりの記事を参考にしてください。

睡眠スコアバトルを始めたんですが、初日から病院送りの予感がする話(追記あり)|くしだのおぼえがき|note

 まあ睡眠スコアを測ってSNSでシェアする遊びなんですが(説明してるじゃん)、スマートバンドというガジェットの未来感や、それでやってることが結局SNSでシェアというこのなんとも言えない感じ、これ、SFですよね? SFです。

 ということで、勝手に宣言して、

 勝手にツイートして、

 この度、上記を冒頭とする掌編小説を書いて、以下に投稿しました。

米の眠り姫 – ねじれ双角錐群

 上記ツイートの後、なんか書けないかなとぼんやり考えていましたが、昨日一日でネタを思いついて勢いでガッと書いています。そんな年末駆け込み仕事なので至らぬ点も多いのですが、勢いは気に入ってます。Sekiro楽しいよねという気持ちを込めました。睡眠スコアバトルSFにSekiro楽しいという気持ちを込めるのは本当に良くないのでやめてください。本来なら天穂のサクナヒメをプレイして天穂のサクナヒメが楽しいという気持ちを込めるべきだったんだよな。そうかな?

 ちなみに、睡眠スコアバトルSF小説コンペ参加作品はまだ他に見たことないんですが、Twitterのハッシュタグでは #睡眠スコアバトル文学 で睡眠スコアバトラーたちがしのぎを削っています。早く寝た方が良いぞ。

 というわけで今年は短編小説4本に加えて最後に掌編1本(短編と掌編の区切りは感覚です)を書くことができました。来年は長編を書きたい。よろしくお願いいたします。

奇祭SF小説アンソロジー『来たるべき因習』Kindle版配信開始

 ついに配信が開始されました。奇祭SF小説アンソロジー界隈でもこの年末年始に最も読むべきとの呼び声高い、ねじれ双角錐群『来たるべき因習』のKindle版。文フリ会場で完売したので今年は入場者数が少ないだろうと思って搬入部数間違えましたねみたいなことを言ってたら通販分も即日瞬殺されてしまったので単にこれ印刷部数間違えてるだろという話題作です。印刷部数を間違えて希少性を演出してKindle版で儲ける手法で屋敷を建てたい……。あなたの今すぐダウンロードがね群屋敷の大黒柱になります。ただ、ベゾスにも金が流れるので程々にしてください。

 このブログでの紹介記事はこちら。各作品の一口紹介もあるので是非。

 以下、エゴサ衆(ね群が最も信用する忍集団)が集めてきた、大変ありがたい感想の一部へのリンクを貼ります。皆様ありがとうございます。もちろんネタバレはある。

 あと、今回は感想ツイートや、以下には載せてませんが購入報告ツイートに表紙の写真を付けている方が多かったのが印象的でした。全ムーさんの表紙めちゃめちゃ良いですよね。今回Kindle版には表紙だけでなく裏表紙の画像も収録されているので要チェックだ。

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Text-Revolutions Extra2に参加しています&オススメ情報

 Text-Revolutions Extra2に参加しています。←参加作購入ページへのリンク

 なんと参加している2作とも基本的にWebで読めるので、貴方はWebで読むか紙で読むか両方読むか選ぶことができます。

 コロナ禍の中でこういうオンラインイベントとか盛り上がった方が良いし印刷所も潤って欲しいよねと思って申し込みました。でも新刊がコピー本になったから印刷所に潤いを与えられていない……。次頑張ります。あとはみんなの新刊を買う。

テキレボEX2とは

 知らない人のために、というか普通知らないと思うので軽く説明すると、Text-Revolutionsというのは文芸系同人誌即売会イベントですが、もともと「お買いもの代行サービス」という通販代行の取り組みをやっており、時勢に鑑みその通販代行部分だけでオンラインでイベントを開催しているのがText-Revolutions Extra、今回は第二回なのでText-Revolutions Extra2です。完全に説明し尽くしました。

 以下、購入時には制約というか注意事項がありますが、そもそもが通販代行の仕組みであるという前提から考えると自然なので大手ECサイト的な利便性を求めるのをいますぐやめて本を買いまくってください。

  • 支払いはゆうちょ銀行への振込のみ。
  • 購入申込や支払いは在庫の確保を意味しない(そもそもサークル参加者は在庫の情報をサイトに登録していない。購入期間後に申込数が通知されそれに対して引き当てる)。
  • 仮に全ての申込が在庫切れで一冊も本が購入できなかった場合でも手数料はかかる。

 詳しくはここを読め。なお『ド百』はこのタイミングでそんなに売れると思ってないけど絶対値としては残部希少、『山の神さん 解説版』はトヨタ式ジャストインタイム生産方式だから在庫は切れません。

オススメ情報

 以下、自分以外の作品で、過去にこのブログで感想書いたオススメ既刊の情報です。まだ自分もチェック作業中なので気づいたら随時増やします。偶然ですがSF系ばっかりだな。

『幸運な子供たち』まるた曜子 – 長編医療SF。主人公がかわいい。感想記事

『Farewell, My Last Sea』佐々木海月 – 海に関する短編集。SF寄り。組版装丁がきれい。感想記事

『時をかける俺以外』雲鳴遊乃実 – タイムリープ青春SF。タイトルで勝ってるだろ。感想記事(この記事を書いた時に読んだ版よりも後に文庫版として出されており、改稿などされているかもしれません)

『蟹 摂食思考機構』木村凌和 – 蟹SF。蟹SFの広がりを感じる。感想記事

『ライフ・ゴーズ・オン』燐果 – ファンタジーSF連作短編。竜人すき。感想記事

『アンソロジー『破戒』Breaking Knox』 – ノックスの十戒を破るアンソロジー。感想記事

Sekiro: Shadows Die Twice

 まごうことなき神ゲーだった。

 そもそもプレイしたきっかけが、まあ話題作だしDARK SOULS III面白かったからというのもあるんだけど、

 こういう布教があった。

 で実際やってみたら面白すぎて最終的に、

 トロコンまでやってしまった。

 高難易度ということになっているが、確かに難しいが必ず解が用意されているのでそれを見つけて練習すればいけるという調整の良さが素晴らしい。達成感感じさせのプロか? ダクソ3から続けてやった感覚でいうとダクソ3より難易度は低い、またトロコンはSPマラソンがクソだるいけど難易度は全然低い(Steamで7.5%トロコンしとる)。じゃあ難易度低いとつまらんのかって全然そんなことなくて、前述の通り調整が良すぎるし、とにかく戦ってて楽しい。全エンド見るために4周回ったけど、さすがに道中はもう飽きて疾走ゲーになるものの、ボスはやっぱり楽しい。

 ストーリーやキャラクターも良く、名台詞が大量にあり、これは覇権ゲームだなと思った。狼が銭袋の重さで微笑むの好き。狼よ、米は炊いて食べた方が美味いぞ。

『月鯨の夜』 葵あお

 第三十一回文学フリマ東京にて入手。BOOTHで通販しているそうです。

 面白かった。Twitterに流れてきた宣伝から購入。今回の文フリは見本誌コーナーなかったりとかしたので、情報が少ない中であえてランダムエンカウント的な要素を強めようと思って、意図的に今まで読んだことない人の本をぽんぽんと買ってみたのですが、そういう買い方で買って面白い小説に出会えるとめちゃめちゃ嬉しいぞ。

 スチームパンク風味の大正伝奇。広義のミステリという読みで良いと思う。という要素の時点で自分の好みに合致しているんだけど、話の構造がしっかりしていてめちゃめちゃ安心して読み進められたし、しっかり期待しているところにハマってきて良かった。第一話のオチみたいなのが好きで、第二話でいきなり加速させて最後まで持って行くの良かったです。良かったしか言ってないが、良かった作品はおすすめしたくなるからネタバレ書きたくなくなって良かったしか言わなくなる傾向にあるな。寧々子さん可愛い。

『先史時代のダイイングメッセージ』 ソルト佐藤

 第三十一回文学フリマ東京にて入手

 本格ミステリに大切な物を削っていく 『オッカムの剃刀』シリーズ第2弾、とのことで、ダイイングメッセージものなんだけど、舞台が紀元前4000年なので文字が発明されていない、という設定。そんな無茶な……。やっていることがダイイングメッセージものの定番ネタなんだけれど、設定のひねり方ひとつでここまで楽しめるというのは面白かった。いらすとやのカバー範囲が広すぎる。

『改変歴史SFアンソロジー』 坂永雄一・曽根卓・伴名練・皆月蒼葉

 Boothにて電子版を入手。先日『なめらかな世界と、その敵』を読んで感想を書いたとき、このアンソロジーのパイロット版のことを思い出してページを見たら、「完成版はマストバイ」とか自分で書いてたのに完成版をバイしてねえということに気づいたので、バイしました。皆さんもバイした方が良いですよ。

緑茶が阿片である世界(曽根卓)

 パイロット版でも読んでいるので、大筋の流れは知っている状態で小ネタを再発見しながら読むのが楽しかった。

江戸の花(皆月蒼葉)

 人情噺だ! SF的には蜂が情報通信に使われてて暗号通貨やCrypkoやなんかそのあたりの要素が出てくるんだけどそういうSF設定にハマりこまずにお話をやっているバランス感。語り口のリズムも良かった。あと最後これがホントの江戸の華とか下げが書いてなくて本当によかった(書いてあったらそれはそれで笑った)

大熊座(坂永雄一)

 謎の設定に引き込まれて途中までこれが改変歴史SFアンソロジーだということを忘れて読んでいたので、改変ポイントが明示されたときのああそういうことか感が強かった。改変ポイントが大きく出すぎで良い。

シンギュラリティ・ソヴィエト(伴名練)

 やっぱり面白いな……。

『息 -Psyche- vol.5』 アナクロナイズド・スイミング

 第三十一回文学フリマ東京にて入手。特集「マンガ物理学」。また難しいテーマだな……。そういえば今回原稿落としネタ枠がないように見えるけど、原稿も落ちたことに気づくまでは落ちないのかな?

エイブリーシティの一夜(淡中圏)

 マンガ物理学のチュートリアルみたいな感じ。入門書だ。オチが良かった。

七〇一号室の黒電話(鹿島渡)

 得体の知れなさ。マンガ物理学で小説書こうと思ったら基本それでボケる方向に行くと思うんだけど(他の作品はだいたいそうだし)、怪異として扱って説明しないというアイデアが良かった。受話器浮いてジリジリしてるの絵面めっちゃ面白いのに怪異ですからね。

ピヨピヨチキンパーリー(鹿島渡)

 ピヨピヨチキンパーリーという語感が良い。もうちょっと話の展開が欲しいと感じた。

高見柄落太郎(月橋経緯)

 足場がないだけに不安定な話。読んで落ち着かなくなってしまった。落語のとこ好き。

ある狂人の手記。あるいは、コマ割り宇宙のパラドクス。(みた)

(なりましたね)のとこがすごく好き。観測者が百合を作る理論だ(適当)。あと名取さなさんは僕も好きです。

Deadlineの東(稲田一声(17+1))

 リフロー型電子書籍化不可能小説だ! 世が世なら『紙魚はまだ死なない』電子版への収録を交渉しにいきたい作品ですが、リフロー型電子書籍化不可能なので電子版は出ません。ペンネームの使い方がズルくて笑ってしまった。ズルいでしょ。二回読むことになるのが楽しい作品。