『ガーファ帝国 マンガ村』 ヒラメ・トロ

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。GAFA、漫画村ブロッキング騒動、個人情報保護法、GDPR、あたりを扱った官僚小説。タイトルや宣伝文から、勝手にもっとメチャクチャなフィクションをイメージしていたのだが(ガーファ帝国っていう国が本当に出来てるみたいな)、そんなことはなく、むしろリアリティに寄せた小説だった。現実の業界小ネタみたいなのを散りばめつつ、あ、それ伏線なの、みたいな仕掛けもあって楽しい。中の人はその方面の関係者なのだろうか……。

『令和の怪談』 Machidania.

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。令和の怪談をテーマとする短編5本。令和にしても怪談にしてもかなり広く捉えられており、ホラーとかそういう感じではない。

『エクソシストは要らない』 akkt

 なんかこう静か系というか特に何かが起こるわけではない話なんだけどそこに妖怪を入れておきましたという一作。当然のように妖怪がいるの好き。あと冒頭エピグラフが意味深なのもいい効果を上げている。妖怪とリトアニアがなかったら多分あまり面白く感じないタイプの作品なんだけど、ちょっとそういう要素を入れるだけで空気が変わるのは不思議。「崎陽軒のシュウマイ弁当」という致命的な誤字がある(崎陽軒エアプか?)(過激派横浜民)(シウマイ警察)

『エウリュディケの画筆』 nanica marui

 雰囲気好き。名前の由来を考えればヒルメはヨミの兄ということだけど、同時にAmaterus自体という意味もあるんだろうか。座敷童子というのは。タイトルの意味が取りにくい。エウリュディケがオルフェウスの妻のエウリュディケの意味だとしたときに、絵の才能があったとかの話って別にないと思うし……よくイザナミとエウリュディケが重ねられる事があるから、名前が明記されていないけど母親がナミなんだとして、職業もデザイナーらしいし、そっちから来たなにかみたいな要素があるのか? ルドンと関係があるのかとも思ったけどよくわからず。みたいなことを色々考えて楽しかった。

『まどろみ、うたたね、夢をみる』 春紫苑

 サークルアイコンのバクの伏線が回収されたのが楽しかった。バク出るのかよ! 視点(焦点)の変更がちょっとわかりにくくて混乱するところがあった。ナンセンスな展開にバクがうまく効いてる。バクが強い。好きな作家サガンの下り好き。

『眠りゆく者に敬礼を』 meme

 天才エンジニア失踪しがち。これは完全にこっち側の問題であって作品に瑕疵は無いんだけど、なんとか財団あんまり好きじゃないので、あーとなってしまった(予期せず話がなんとか財団になるのとなんとか神話になるのがちょっと……)。

『酒天童子』 kawaiiyumegirl

 この作風というか、主人公とその友人の造形、なんだっけ。なんかあるよねこのジャンルが。なんか5作の中でこれだけ方向性が違うと思うんだけど(だから最後に載ってるのかな)、でもこれが一番好きですね。下北沢感が楽しい。緋月さんが強くて良い。終わり方の雰囲気も好き。

笹NOTY2019ノミネート作品

 2019年に読んだ小説で良かったやつ特集(2019年に発表された作品では全然ありません)。まだ半月あるからダークホース情報を募集しています。

『虚構推理』 城平京

 妖怪とか好きだし、都市伝説とか好きだし、変則ミステリ好きだし、説得力さえあればいい理論好きだし、やたら強い(不死身)男と毒舌美少女のバディも好きだし、基本全部好きなのにむしろなぜ今まで読んでいなかったのかくらいの作品。1月からTVアニメも始まるぞ!(すごいアニメにしにくそうだが……)

『マルドゥック・スクランブル』 冲方丁

 カジノでどんだけ引っ張るんだよ。そしてなんでカジノだけでこんなに面白いんだよ。ここまで作者がやりたいことをやって、それで読者が楽しくなったらそれはもう小説として最高だ。武器と人間の緊張感をネズミと美少女でやっていく。やっていけ。

『図書館の魔女』 高田大介

 最高のファンタジー小説。最近ファンタジーを読んでない人は今すぐ読んだほうが良い。超弩級ファンタジーであり、言葉の話であり、図書館の話であり、ボーイミーツガールであり、ファンタジー小説って面白かったよねという気持ちを思い出すことができる! きり。

『0.5センチの怪獣!!』 ソルト佐藤

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

「ハートボイルド・百合(?)・本格ミステリー」とのこと。読んだ感想としては、クエスチョンマークがついていたのに思ったよりも百合じゃんと感じた。ミステリーもしっかりある(細かい伏線がいっぱいあっていいですね)けどメインは百合ですねこれは。百合じゃん。しかも結構めんどくさそうなタイプの! もし続編があるならぜひ読みたいです。

『息 -Psyche- vol.4』 アナクロナイズド・スイミング

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 特集『見るなのタブー』ということで、見るなのタブーをテーマとして6作が収録。このテーマは結構難しいと思います。物語の構造自体を縛ってくるテーマなので、読者に対して意外性による面白さを提示しづらい。そんな中で結構幅のある作品が集まっている。

淡中圏「見るなの学園」

 鶯内裏、雪女、鶴女房(?)のアレンジ。所々でギャグが差し込まれている。百合にしてみたり消しゴムにしてみたりするアイデアが面白い。ただそれぞれ短く終わってしまうので物足りなさもあった。

淡中圏「まかぶる」

 イザナギとイザナミの黄泉の国の話で、見るなのタブーだけでなくて呪的逃走のところまでオマージュしている話。タイトルは死の舞踏? サブウェイの駅とか言って雰囲気出してたのにファミリーマート出てきて笑ってしまった。途中まで真面目にホラーっぽくしてるのに最後雑に原典使ってくるのが茶化してる感じがして面白く、好き。

月橋経緯「かく(さ)れる」

 意味のわからない系の怖さ。そういう系の怪談ってバランス感覚がいると思うんだけどこれはちょうどよく感じて良かった。ちょっとネットロアっぽくもある。前半と後半の関連がよくわからないのもそれを増長していて良いですね。

伊予夏樹「箱庭に人を入れる方法」

 一転してファンタジーっぽい話。見るなのタブーが世界的に残っていることを考えるとこうして世界設定の雰囲気が違う作品が入ってくるのはいいですね。キャラや用語からなんとなくその雰囲気を察したんだけど連作短編として書かれたものの一部とのこと。

稲田一声(17+1)「はっちゃん帰路をゆく」

 本書で一番好きです。これはまさに理由説明系の昔話じゃないかと思ったらあとがきにそう書いてあったのですごい納得した。振り返るな型の見るなのタブーを生物学と絡めてギャグSFにした上で、物語的にも真面目な伏線の回収に使ってくるのズルすぎるでしょ。この記事の最初に書いた「読者に対して意外性による面白さを提示しづらい」を完全に乗り越えている一品。

弥田「【お詫び】今回、晴ノ宮時雨さんの原稿は諸事情により掲載見送りとなりました」

 定番の原稿落としネタ枠なんだけど、ちゃんとテーマに沿っていて笑う。

『会計SF小説集』 アーカイブ騎士団

 第二十九回文学フリマ東京にて入手。上記はKindle版。

 前回の『モンスター小説集』がメチャクチャ面白かったので、今回も期待して読んだところ、メチャクチャ面白かった。

簿記とAI(高田敦史)

 コンタクトモノとAIモノに複式簿記がぶつかるという、「いや会計SFってなんだよ」を「あ、これ会計SFだ」に変えてくれる最強の冒頭作。醸し出してくる雰囲気や周辺設定の広がりがすごくて、ページ数結構あるんだけどあっという間に読んでしまった。これ全然続き読みたいし、長編向きに感じる。

MNGRM(旅岡みるく亭)

 会計というよりは功徳経済の話かな。宗派の違い云々のところが面白かった。話的には盛り上がりはこのあとのように思って、ちょっとすぐ終わりすぎた感じもあり、もう少し読みたい。

サイボーグは冷たい帳簿の中に(森川 真)

 本書で一番好き。脳埋め込み計算機が体重の1%までなら福利厚生費だけど1%超えたら資産化しないといけないとか設定が強すぎる。公開会計と経理のゲーミフィケーション『副社長リーグ』とかメチャクチャな設定なんだけどSFとしてまとめ上げている手腕が光るし、雪夫の母親に関するドラマがきちんとドラマしていながらにして全部ちゃんと会計処理になっているのも正しく会計SF。『簿記とAI』が複式簿記の歴史的側面とかをうまく使っていたのに対して本作はかなりテクニカルに会計SF。「早く帰って会計しないと」とか笑わせてくれるのも良い。あとタイトルが深い。

複式墓地(渡辺公暁)

 ダジャレやんけ。SF色は弱めなんだけど会計の使われ方は秀逸。西洋伝奇モノ的な位置づけのほうが近いと思うけど、そこに複式簿記が持ち込まれると変なおどろおどろしさが出て良い。手形のとこで急にそういうのが来たから笑ってしまった。

日商簿記2級受験記(高田敦史)

 これ読むと受けてみたくなるな。

『消える記憶』 るびび

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 記憶が消えたりそれを操作的に使うのってエモいよねという話であり、エモいよね。あと海行くのもエモいよね。なんかそういう話であり、作者の「こういうの好きなんだよね」感が盛り込まれており好感が持てました。めんどくさい百合という売り文句だったが、たしかにめんどくさく、というか主にめんどくさいのは主人公なのがいいですね(?)。多分結構広がる(広がったほうがいい)話のように思うので、続き的なものがあるなら読んでみたいです。

『全ての探偵が死んだとき』 黒澤正樹

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 見本誌コーナーで「探偵が全員死にます」みたいなことが書いてあったのを見かけて思わず手にとったところ、冒頭の登場人物一覧でこれ絶対面白いだろと思って購入した作品。登場人物一覧だけでメチャクチャツッコミどころがありすぎて笑える。勅使河原を二人も出すな。人造人間ってなんだよ。もう冒頭で勝ってるんですよね。本文でも案の定破壊的な行為が行われ、アンチミステリ的な様相で、読者側がツッコミを入れたくなってしまう。というか大きいツッコミどころが目立ちすぎるせいでなんとなく霞んでるんだけど、そもそも『200年前に起きて未だに未解決の密室殺人の現場を模したアパート』って設定がギャグじゃないのか。楽しい作品でした。

『姪探偵登場!』『姪探偵対恐喝王』 ソルト佐藤

 第二十九回文学フリマ東京にて入手

 最近妹じゃなくて姪というジャンルが流行っているとかなんとかいう説があるけどそのあたりを逆手に取った(取ったのか?)「ちょっとお茶目な姪の探偵が若い叔母さんと共に」事件に立ち向かう推理小説。二作ですが(二作目の『対恐喝王』は上下分冊なので物理的には三冊)まとめて感想書きます。

 一作目『姪探偵登場!』は千里眼退治。トリックの都合上ではあるんだけど最初の方が意図的に読みにくくされている部分があってつっかかるんだけど、そのあたりも含めて最後に回収されるのでよい。スキル人材の話すごい好きで、ネタとしてこういうの入れるのもいいし、シリーズの広がりを感じさせる要素にもなってるのが良い。

 二作目『姪探偵対恐喝王』は推理小説として一回り二回り本格化していて、でも軽いギャグの雰囲気もしっかり残してあって好き。タイトルがホームズ要素を示唆しつつその表紙で「女子高生がやればなんでも流行るっす! 軽音楽でもキャンプでも地味な推理小説でも!」とか言ってるバランス感が好きですね。実際中身も重さと軽さの使い分けが好み。恐喝王の追い詰め方も、真意も、ラストの展開も、様式美でありホームズ感を現代化した感じで、楽しめました。

神待ちSF幻想小説合同誌『心射方位図の赤道で待ってる』通販開始/文フリ東京ありがとうございました

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 文フリ東京お越しいただいた皆様ありがとうございました。ねじれ双角錐群は四年目の参加でしたが、大分こなれてきたというか、なんか無言で設営してたりとかがスムーズになっててじわじわ来ました。今年は主宰の搬入部数読みが鋭く、夕方いい感じの時間に完売して思わず「神」と呟いてしまいました。神は身近なところにいるんだよな。待ってるだけじゃなくて探してみたら?

 通年通りねじれ双角錐群の次回参加は来年秋になると思います。春はなんか違うことで参加しようと思っています。よろしくおねがいします。