『文体の舵をとれ』練習問題(3)追加

追加問一:

何がヒーローやこれよう言わんわ。

こんな剣ほんま重たいであかんわ。

狭くてかなわんし何や空気悪いわ。

なんやねんこの15て浮いとるん。

歳ちゃうなもう今年19やさかい。

なんか言うてえな聞こえとるやろ。

そなわかってるレベルいうんやろ。

そのヒーローいうんが来て戦うて。

数が大きい方が勝ちますいうてな。

で勇者いうんはいまいくつやねん。

おい今の聞こえたか何や叫びよる。

えらい揺れよるわ床落ちるん違う。

なああんたは外も見えとるんやろ。

ここ窓ものうて何も見えへんけど。

来よるやつは15より大きいんか。

なんやそないカチカチカチ押して。

いらちやな仕舞いまでおってえな。

追加問二:

 老婆から神の姿に変わるのは、真の姿を明らかにするというのとは違って、仮の姿から仮の姿への並行移動に過ぎないのだが、男は驚いている、けれどいま神なのはその回転の中の一瞬たまたまで、たとえばこの驚いている男、何も持たずこの都市にやってきたあの日、空を衝くビル群、増殖し膨張しつづける富に憧れ、しかし持たざる者である私にできることといえば都市の水底のゴミ拾い、拾っても拾ってもなくならず、つまり富が増えるのと同じだけゴミも増えるのか、人間どんな作業でも続ければ楽しくなる、楽しくならねばやってられぬとにこにこ奇怪な笑みを浮かべるその男を見て、私は笑ってしまった、だってそいつは微笑みながらゴミを拾い上げては背嚢に積み、自分の殻を飾り付けるヤドカリみたい、夜の街明かりに電飾のようキラキラ輝いて、くだらないオヤジの相手に倦んだ明け方の私はおかしくって、笑うその女を睨む私の目は涙に滲み、けれどその中に一筋の炎が燃え上がるのを私は確かに見た、男の決意がいま固く伸び始めたと悟ると、私は地に還るたび男に拾い上げられ、やがて男の収集車に拾われ、やがて男の収集所のスタッフたちに拾われ、まったく人使いの荒い、容赦ないボスですよ、俺たち全部の班の収集ルートを一つ一つボスが決めてるんです、普通の収集所でそんなことがありますか、遅れると怒鳴られる、けど確かにボスの言うとおりに走ったら言うとおりの時間に事務所に帰れるんで、私がこのようにして事業の拡大にひた走っていたその最中のある日、私の目の前に倒れる者がいるかと見れば、それはゴミにまみれた老婆で、はて大事だ、助けを呼ばねばと声を張り上げようにも、老婆のポケットの中から私の声は外に届かない、だがそこで老婆を覗きこむは貴方だ、たった一人何も持たないゴミ拾いからここまで事業を興した貴方だ、さあ私を引いてくれと叫ぶと、私は十枚のカードを回転させ、回り続けるその輪の中、私を引いてくれと声限りに叫ぶ、私を引いてくれ、この回転から助け出してくれ!

 * * *

『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』の練習問題③の追加問題、

問一:最初の課題で、執筆に作者自身の声やあらたまった声を用いたのなら、今度は同じ(または別の)題材について、口語らしい声や方言の声を試してみよう――登場人物が別の人間に語りかけるような調子で。あるいは先に口語調で書いていたなら、ちょっと手をゆるめて、もっと作者として距離を置いた書き方でやってみよう。

問二:書いてみた長い文が、単に接続詞や読点でつなげただけで構文が簡単になっているなら、今度は変則的な節や言葉遣いをいくらか用いてみよう(ヘンリー・ジェイムズを参考のこと)。すでに試みたあとなら、ダーシなどを駆使してもっと〈ほとばしる〉文を書いてみよう――さあ、あふれ出させろ!

への回答です。

 同じ内容で書き直すのきついですよね。弱い自分は最初に書いた内容に無意識にしがみついてしまう。でもそれを書き直してスタイルを変えてみたときに発見あるよとルグウィン先生は言っているのだ……という解釈で取り組みました。完全に同じ内容でなくてちょっと捻ってしまったけど。まあ問題文をよく読むと同じ内容を書けと明言されているわけでもなかったな。問二はちょっとやりすぎて意図(語り手《私》が回転していく)が伝わりにくかったっぽいなと合評会での反応で思いました。

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