【感想】『嘘つき姫』坂崎かおる

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 これまでに(本書以前に)読んだことのあった坂崎かおる作品は、「リモート」「嘘つき姫」「おしたりひいたり」「リトル・アーカイブス」「電信柱より」「ドーナツ・ホール」ですが、基本的に全部面白かったという特徴があります。それはもう、特徴なのか? そしてこの単行本に収録されている作品も、全部面白かったです。そんなことってあるのか?

 こうしてまとめて読むと、うまく言葉で表現はできないものの作風は見えやすくて、自分が好きなのは、構成がしっかりしていること、その上で単純な構図すぎない複雑な味が出るようになっていること(というか、基本的に、かなり難しい話を書いていると思う)、また、取材が厚いので知的好奇心にも作用するのもポイントだと思うし、そのような作品をこれだけ多数書けてどれもクオリティが高いというのは、一体何を食べたらこれが書けるんだ(実際に何を作り食べているのかはTwitterに投稿されていて公開情報でありそれもまた別の話としてものすごいのですが……)

 全部面白かった前提で特に好きだった初読の作品について。ネタバレが含まれる。

私のつまと、私のはは

 デザイナーとして受けた奇妙な仕事をきっかけに理子のもとに「子育て体験キット〈ひよひよ〉」が届く。彼女は消極的だったが、同棲しているパートナーの知由里は「練習だよ」と熱心に〈ひよひよ〉の世話をはじめ、なし崩し的に二人の子育てが始まった。

 これはまずは構成で、構成で言ったらもう首の骨を絶対折るじゃないですか。それはもうわかってるから、いかにしてそこに至るかというのを読ませる話であるというのがまずあって、それをちゃんと期待に応えてくれた上で、さらにもう一枚伏線回収を乗せてくる、これが完璧すぎクリーンヒットで喜んでしまった。この部分の作りは収録作の中では比較的わかりやすいオチであるものの、そのオチ頼りの作品には全然なっておらず、ずっと読んでいてなんとなく居心地の悪いような不安定さ、でも好奇心を惹きつけられて読むのをやめられない描写力がある。

あーちゃんはかあいそうでかあいい

 小学校の同級生だった「あーちゃん」と再会した私の、歯にまつわる思い出と交流。

 という説明では全くあらすじの説明になっていないが、説明が難しい。そして感想も難しくて、二回読んだけど、すごい、くらいしか言うことがない。ある種、語り手に信頼できなさとか、異常性がある話だけれども、それをオチとして話を閉じるような薄い内容ではない。「私」は「あーちゃん」を崇拝していて自分しか正しく彼女を見られていないと思っている節があるけれど、それが実際には拒絶されるとか裏切られる話……なのかというとそこで終わるわけでもなくて、ラストで二人は手を取り合ってるんだよね。じゃあオープンエンド気味に煙に巻いてふわっと終わってるだけなのかというと、そんな話ではないはずだという信頼を持って読める凄味がある。その二人の世界だけというのではなく、「私」の母親が結構キーになっている(タイトルとか)のもどろっとした手触りで良い。

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