【感想】『エッチな小説を読ませてもらいま賞 受賞作品アンソロジー』

 文学フリマ東京37にて入手。2023年最大のイベント『エッチな小説を読ませてもらいま賞 〜さあ、エッチになりなさい〜』の受賞作品アンソロジー。まだ公式サイトを見たことがない人がいたら見た方がいいです。よすぎるので。そしてこの同人誌、柱に一々ハートがついてて、しかもなんか微妙にベースラインが上がってるように見えるのが、公式サイトのTwitterの鳥からハート出てるやつを思い出して毎ページじわじわきて仕方がない。

 以下は受賞作品部分の感想(本書には、受賞作の他、論考、総評、コンテスト開催にあたっての取り組みについての記録が収録されている)。

 自分が特にエッチだと思ったのは、巨大健造「したをかむ」、ワライフクロウ「煙滅」の2作。次点に好きだったのが春道累「きつねは七化け」、坂崎かおる「ドーナツ・ホール」。

「きつねは七化け」春道累

 きつね。後半の急カーブがかなり急だったという印象があるんだけど、それでもよかったのは、橋本輝幸さん選評の指摘の通りハッピーポジティブであるところだと思う。個々の要素は定番ながら組み合わせと緩急が良く出来ている。バランスボールも良いと思う。好き。

「メロウイエロー」渋皮ヨロイ

 レモンイエローのボウリングの球。なんとなくこの公募企画には無生物モノが結構応募されて来るのかなと想像していて、まさにそのルートでの力のある作品。無生物に対する欲情の様が丁寧に繰り返し書かれていて、理屈ではなく感性にエッチを主張してくる。

「ドーナツ・ホール」坂崎かおる

 幻肢。幻肢を揉む按摩の時点でアイデアが強すぎるしエッチなのだが、そこから一捻り入れたことでド迫力の一作になっていると思った。すごすぎる(その分、エッチさからはピントがずれてるのではないか、というのは、多分欲張りすぎるのだけれど、それに近い話(?)が選評に触れられていたのは納得感がある)。

「かぬまさん」霧島バース

 かぬまさんとの不倫。こういうタイプの生々しさは自分はあまり好きではないですが、描写に力があると思った。

「干し柿の現在地」野咲タラ

 干し柿作り。干し柿を作り、食べていく過程を詳細に描写してきたのが活きる結末が良かった。詳細に書かれることと、はっきり描かれず読者の想像に委ねられていることの濃淡が良いと思った。

「プレローマ」淡中圏

 ピンク色のゴムの薄膜。謎の現象の広がりを記述していくことで読者を引き込む。得体の知れなさや破滅への好奇心がエッチさと近接していることを巧みに利用していると思った。

「したをかむ」巨大健造

 鏡写しの町に住むもう一人の自分(?)。いやこれは……エッチですね。ドッペルゲンガー的な。なんで反省文だったんだっけとか、気になるところはありますが、エッチですね。エッチだと思います。「それはインモラルだね」あたり、この鏡写しの町の設定を断片的に見せつつ、ちょっとギャグっぽくしつつ、秘められた真のインモラルさ(そして、それがインモラル扱いなのは何でなんだっけ、という薄ら寒さ)が重層的に読めてすごい。

「舌禍」佐々木倫

 人魚。人魚という題材にエッチさを求めた人が多かったらしくたくさん応募があったとのこと(自分は人魚という題材にはそんなにピンとこないのですが……)。本作はその人魚の応募作の中から勝ち上がった一作ということで、単に怪異として/向こう側の存在としての人魚を出すというのではなく、主人公が人間と人魚の狭間におかれるのが構成としてよいと思った。タイトルも良い。

「妖精の布」あやふや

 妖精の教えを受けた少年の機織りの秘密。ファンタジー風で良い。良いというか、なんだろう、エッチと言われると私たちのこの世界からの地続きに想像を膨らます(ローファンタジーというやつか?)ことが多いように思えるし実際ここまでの作品もその割合が大きかったところに、空気の違う作品が読めて楽しい。狩人と少年のそれぞれの視点が丁寧に描写されているのがよい。

「煙滅」ワライフクロウ

 故人の思い出とパイプ煙草。語り口の味がめちゃくちゃ良くて、その鼻につくところとかどうなんだと思うところも物語構造的な必然性に(ある程度は?)回収されていくところがとても良く出来ていて、かつ語られるタブー的な行為もエッチだ。それで飛んでるのはもう、エッチじゃん。

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