『貝楼諸島より』『貝楼諸島へ』 犬と街灯

 第三十四回文学フリマ東京にて入手。通称・島アンソロジー。2021年5月に始まった、架空の島々「貝楼諸島」を舞台とする小説を集める企画が、最終的に書籍版として完成されたもの。 参加者多数につき『貝楼諸島より』『貝楼諸島へ』の二冊になっています。私も掌編を寄稿させていただき、献本いただきましたが、装丁がとても素敵で、紙の本としての質感が非常に気に入りました。企画の性質上、作品は基本的に全てWebで読める(Web上に作品が散らばっている感じも諸島の趣や存在のあやふやさがあって良かった)わけですが、それを紙の本にまとめることに意味が出てくるクオリティで、紙で読みたい、本棚に置きたいと思わせるできあがりだと思いました。

 犬と街灯などでの販売、および通販も実施されているとのことですのでぜひ。

 非常に作品数が多く、その方向性も多彩です。特に気に入った作品の感想を書きます。

俳人の島/うっかり

  • 人間の句会を見に来ている人工知能たちに、俳句への署名用に自分(人間)の名義を売るという話の導入が既に面白すぎる。
  • そういうちょっととぼけたサイバーパンク的な設定で始まったところがすごい速度で島(島流しであり、辺境であり)に繋がって、後半に進むにつれてファンタジー的な色合いが出てくるのが好きだった。
  • 俳句の組み込み方も素敵。

しほかぜさえわたる/貞久萬

  • ナンセンス系なのにかっこよさが同居してて好き。
  • 何が始まるんだと思いながら読んでてなんかあーって分かってきた辺りがちょうど「柔砂利注入」「柔砂利注入開始」のとこで無性に笑えてしまう。その先も設定が飲み込めそうな気がしたところでまた変なのが出てきたりとか飽きさせない。
  • こういう何食ったらこの小説出てきたのみたいなの好きなんですよね。
  • 『しほかぜさえわたる』パートの含蓄のありそうな雰囲気を出しておいて最後煙に巻く(?)のも良い。

真珠腫/うさうらら

  • かっこいい掌編。
  • 短い中にしっかり島の設定が浮かび上がるのが良い。自分は最後まで読んでからタイトルを読み直しておお、となった。タイトルの使い方も効果的だと思った。

呪詛売り/瀬戸千歳

  • こういうバディ的なやつすごい好きなんですよね。
  • 呪詛の設定から引きが強く、心中疑われるのも、それで怒るのも、細かい質感も良い。
  • 異界としての島で、ちょっと怪奇方面に行くけれどもきちんと戻ってきて、設定の一部を明かしつつ(?)やわらかなオチを付けているのが好みだった。

蛇腹市場/岸辺路久

  • 南国の島とサイバーパンクっぽい感じがうまく融合しているのが良い。面白い味が出ていて好き。
  • 伊丹丹パートが回収される、内と外の連動性みたいなところ(いや明言されていないから、多分だけど)が短い作品の中にしっかり構造つくってあって好み。他作品へのリンクの張り方も上手だと思った。

おかえりの島/谷脇栗太

  • 特徴的な方言を含め、語りの声への意識がすごく強いのが読み取れて、読者のこちらも声に出して読みたくなる作品だった。
  • 「エスディージーズなるぞ、おえ、よお」「汝にも名コ付けやるがい。んう、モヅルちどうがい、おえ。意味はなし」この二つの台詞が特に好き。

おしたりひいたり/坂崎かおる

  • 時間を流れさせるのがすごくうまいなと思った。この短い話に詰まっている時間が長く、かつ密度があるように感じた。
  • ポッドがキーになるところをしっかり回収しつつ、主人公とアラムのあたりは謎めいたままきちんと答えずに南の島の空気でフェードアウトさせる結末が好みだった。

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