声百合アンソロジー まだ火のつかぬ言葉のように - ストレンジ・フィクションズ - BOOTH
『よふかし百合アンソロジー』から二年、ストレンジ・フィクションズの〈百合アンソロジー〉第二弾がついに現れる。テーマは〈声百合〉。村野四郎の戦後詩「夜の中から」を引用しつつタイトルに据えた百合版・〈異形コレクション〉ともいえるストレンジな作品...
文学フリマ大阪11の新刊。寄稿させていただいた同人誌。上記のページで通販が開始しているので是非!!
以下、ネタバレを含む感想。ネタバレのない、寄稿しました報告の記事はこちらです。
紙月真魚「貝と耳鳴り」
- 元恋人の声がずっと耳に残っている主人公。元恋人の自殺の報を受け葬儀に出席したところ、”洞吹き”の異能について知らされる。
- 異能の設定がいやに応用効くというか、トンネルのくだりとかよくできてて、ずるいな。そしてそこからの無茶オチも好みです。しれっと無茶なことを言っているがなんか勢いと綺麗さで押し流されている!
- 書いてる側は多分変化球投げてるんだけど他と並べてみたら結果かなり直球の声百合(声だし、百合だ)なの、面白すぎる。
笹幡みなみ「今日の声は聞いてないから」
- 私の作品です。
- あとがきに書いた通り、前回『よふかし百合』の「終夜活動」の逆です。そもそも、「終夜活動」がすでに声百合であり(自分にしか聞こえない声だけの存在との関係……声百合やんけ!)、そこから外そうと思ったら、こんなことになってしまった。
- 自動文字起こしがいつのまにか実用レベルになっていることや、テキストSNSのプラットフォーム上で通話と配信を同時に行うことが急に一般化したこと(そしてツイッターが終わったこと)などを踏まえると、旬な内容を書けたと気がして楽しかったです。百合に正面から向き合っていないのは反省点です。百合に正面から向き合え!
孔田多紀「ポストカード」
- 自転車事故で骨折させてしまった友人を手伝い、口述筆記でBL小説を書く。
- という一言にはまとまりきらないツイストが用意されていたり、細部の描写がかなり豊かであったり、非常に密度のある作品だと思います。本書収録作品の中でもやや長めである分を差し引いても、この数のストーリーとキャラクターをまとめきっているのはすごい。
- アリスの母親のエピソード、サクラの兄のエピソードがなんだか好きで、そうするとこの二人のキャラクター像がしっかり立ち上がってきて、その二人の頑張る姿にはぐっとくる。
- 本書の中では一番好きな作品でした。
茎ひとみ「壊死した時間」
- 盲目の主人公が弟夫婦の家に転がり込み、疎まれながら暮らすが、あるとき旧友からの電話を受ける。
- 悪意と薄気味悪さの表現が一級。波の音、電話の音、読み上げアプリ、指紋、と各パーツの演出効果が絶妙。ラストめちゃくちゃ良いな。
- 毎回思うけどスターシステム確立されてるのずるいでしょ!
織戸久貴「ミメーシスの花嫁たち」
- 太平洋戦争中のラジオとそこで朗読された愛国詩について、その時代に心中した女性二人、そこから現代で同名の女性二人が主人公のアニメ、その続編のラジオドラマ、二次創作、読み上げAI……などが交錯する(一言で説明するの難しすぎない?)
- 作中作と歴史(歴史改変?)が虚実入り交じりメタ演出も躊躇無く繰り出される、おいそういうの最近見ないぞでも好き!となるやつ。資料取材に裏打ちされているからこの無茶が許されている気がする。
- 一本の中で声という言葉の多義性をかなり語り尽くしていてすごいですね。
千葉集「声豚」
- タイトルで笑わせるのやめてよ。
- 豚を連れて登校した中学生がその豚をクラスメイトだと主張するシーンから始まる。もとはといえば、彼女はそのクラスメイトの声に執着していた。
- 声と見せかけてカルト小説であり、豚小説である。このカルトの絶妙なディテール、かわいく見えてくる豚、その設定上の接続も含めて上手い。5の光景というか、薄暗い部屋の情景が好き。
谷林守「溶けて、燃える」
- 夜の繁華街で連日何かを探して張り込みを続ける先輩と後輩。
- 王道に(?)声百合だ――。
- そうなると読者は欲張りなので、もう少し短編の長さで読みたくなってしまうけれど、それくらいのもう少し読みたい!の感じでこの一冊が終わるという構成になっているのは結果的にすごく良いと思った。