【感想】第三回かぐやSFコンテスト最終候補作品

第三回かぐやSFコンテスト | VG+ (バゴプラ)
かぐやSFコンテストは、日本のSFを世界につなげる架け橋になることを目指す短編小説のコンテストです。 主催はSF企業のVGプラスが運営するSFレーベル・Kaguya。 大賞に選出された作品は、英語・中国語に翻訳されます。
  • ネタバレを含みます。未読の方はまずは上のリンクから10作読んで、投票してから、ここを読んでね。読者投票期間は2023年9月19日(火)までとのこと。
  • 自分が投票する一作を選ぶことを前提にしているので、おそらく目線は厳しめになっていて、マイナスポイントの感想も書いてあります。

「月はさまよう銀の小石」

  • ネアンデルタール人の生き残りの村出身の父が野球選手として活躍したが、主人公が思春期に入ると受け継いだネアンデルタール人の形質に悩みはじめて、という父子の話。
  • ラストの画が良い。
  • アメリカ的な子ども時代を振り返るノスタルジーの味がかなり肌に合う感じがした。
  • ネアンデルタール人の生存IFであることが生かし切れているかというと物足りなさを感じる。ネアンデルタール人の生き残りの村、というのがSF設定としては引きが強い割に、物語の展開的には、体質とか人種のレベルから外に出ていないような気がするなぁ、と思ったら最後の方に火星開拓民にネアンデルタール人が選ばれているとまた急にどぎつい設定がさらりと書かれていて、どっちを主に読めば良いのかなと思った。

「歴史的な日」

  • 温暖化で熱中症対策などで学校の屋外での体育がなくなり、屋内でやるのが当たり前となった屋内体育世代の主人公が、工事業者として屋外体育用のトラック用テントを作り、その初使用の歴史的な日を迎える。
  • よくわからなくて、なんか皮肉な感じを込めたいのかなと思ったんだけど、自分の好みとは合わなかった。

「城南小学校運動会午後の部『マルチバース借り物競走』」

  • あータイトルが既に良い。ところでタイトルのカギ括弧が表記揺れしてる。
  • 運動会で行われた、マルチバースに飛んで世界を改変し、現時点でどのバースにも存在しないお題のアイテムを持って帰ってくるというマルチバース借り物競走の実況。良い設定。
  • まあオチは読めちゃう。読めちゃうけど、中盤が楽しかったから良かった(解説者の解説力が高すぎて笑う)。けどその読めちゃう感をもう一回り超えて欲しいという欲もある。

「プシュケーの海」

  • 神経をバイパスして情報伝達するインプラントチップによって半身不随となった元水泳選手の運動能力を回復しようとする主人公は、同じインプラントで今では泳ぐことができるようになったイルカと元水泳選手の情報を接続しようと思いつく。
  • 丁寧に書かれていると思うけど、どうしてもアイデア自体が見慣れた印象を受けてしまって、それを突き破ってくる次の矢がなかったかなぁと思った。

「勝ち負けのあるところ」

  • 女子プロレスラーである主人公は、突如現れた六本腕の巨大な宇宙人の人質になり、宇宙人が地球人類に要求しているという生身での戦いに参戦させられる。
  • 構造が結構面白くて、そもプロレスっていう戦いの仮構があって、そこに勝ち負けがあるんだけど、それは作り物、でもその勝ち負けに観客は熱狂する、主人公の言葉を借りれば「勝敗が相対化される」んだけれども、結局は「現実の先入観を強化する」面もある。という複雑なアンビバレントが冒頭でさらりと提示されていて、宇宙人の襲来とそれとの生身での戦いというところに上手く繋がってテーマが回収されていく、しみじみ良いなと思った。
  • 冒頭の語りでは「苦痛」という言葉までつかわれているけれど、それに反して主人公の語り口はさらりとしている。異常な状況にありながらも最後までその落ちついた語りが続くのが、主人公のパーソナリティーを感じさせるし、それならこのオチの判断だってあるかもしれない、きっと向こうでもなんだかんだ楽しくやってる、と思えてくる。上手いと思う。

「叫び」

  • 馬が叫び声を上げ、それを聞いた人が猛烈な苦しみに襲われるという奇妙な現象が世界に広がり、馬が排斥されていく。
  • 馬という存在の人類とのパートナー性と、そこにある欺瞞について。この題材もなんだか最近よく見る気がするけれど、本作は排斥されていく馬を守ろうとした何人かの挿話と、にもかかわらずの最終的な歴史改変的な着地が複雑な味を出していて、ありがちでは終わらない感じが良かった。
  • とはいえ、とはいえ結局なんでそうなったんだっけというのがわからないところではあった(別にわからなくていいのかなとは思う)。

「月面ジャンプ」

  • 主人公は妹と少しでも高くジャンプしようと月面ジャンプの練習をする。月面ジャンプは今夜のオリンピックの種目なのだ。
  • 状況は悪い(よね?)けれどほんわかした雰囲気なのが良い。
  • どうしても語り手が実は人類じゃなかった話は割り引いて読んでしまうバイアスがあり、意外性が面白さにあんまり繋がらないように思った。

「あの星が見えているか」

  • 身体矯正医療が当たり前の時代に生身で衛星軌道上の標的を視認する視力検査じみた競技「競視」プレイヤーの話。
  • 「競視」のアイデアが一本良い。宇宙のデカいスケールですごい装置がなんかしてる描写から始まってやってることこれ視力検査やんけ!アルファベット混ぜんな!という読者のツッコミまで含めて良く出来ている導入だと思った。
  • 身体矯正という表現になっているけれど、スポーツにおけるAIや機械化の問題、これ自体はありきたりなところ、それが「競視」について語られているのがよくて、競う意味あんのかみたいな素朴な疑問、でもそれいったら現存するスポーツ特に個人競技わりとそうじゃないかみたいなことをかってにこっちが考えさせられている。
  • 恩師とのやりとりの雰囲気もとても良い感じだったけど最後ちょっと尺が足りないかもしれないと思った。もう少し読みたかった。

「マジック・ボール」

  • 女子寄宿学校に入った主人公はルームメイトのダーシーに巻き込まれベースボールをするようになるが、投げたボールが消えて別の場所に現れるという奇妙な現象が起きる。
  • 消える魔球にタイムリープ要素を載せて。因果がループしているようなアイテムを送り込むオチはお約束ながら、ダーシーというキャラクターの立ち方がとても好き。ワニみたいにふてくされたやつとか冒頭で書いてあるところからもう引き込まれてしまった。このプロット、きれいに書かれたらお行儀が良すぎてマイナスになりそうな話だけど、ダーシーが暴れることでそのあたりが上手くまとまっていると思う。好き。
  • ダーシー一回死にかけてるのに全然死なないの笑うな。この肩透かしなんなんだよ。

「ベントラ、ボール、ベントラ」

  • 午後六時に「ボール」を持っていたものが勝ち、という「ドッジボール」に興じる町の人々の話。ただしボールが何であるかはわからない。
  • センス系なのでよく意味はわからないが、センスは良い。

どの作品に投票するか

  • 一読した印象としては、「マジック・ボール」が一番好きだった。次いで、「勝ち負けのあるところ」「叫び」「あの星が見えているか」「ベントラ、ボール、ベントラ」も良かった。
  • 上記5作をもう一度読んで、「マジック・ボール」「勝ち負けのあるところ」で迷ったけど、やはり「マジック・ボール」に投票します。
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