【感想】『茨文字の魔法』パトリシア・A・マキリップ 原島文世訳

茨文字の魔法 (創元推理文庫) | パトリシア・A・マキリップ, 原島文世 |本 | 通販 | Amazon

 良いファンタジーを読んでしまった。じわじわと良くなってくるというか、冒頭でガツンと引き込むというより気づいたら先が気になっている感じ。終盤の加速感がすごかった。

 王立図書館で養われている孤児の少女ネペンテスが、謎めいた茨文字の本の解読にのめり込んでいく。そこに記されていたのは、古代の皇帝アクシスと、それに付き従う魔術師ケインの物語。茨文字の本をネペンテスに手渡したのをきっかけに彼女に惹かれる魔術学院の学生ボーン。そしてこの図書館や学園をもつ王国・レインの幼い女王テッサラと、その相談役となる魔術師ヴィヴェイ。……と、主人公的な扱いで焦点化する登場人物だけでもこの人数がおり、交互に各パートが回っていき、最後に全てが集結していく、という王道なスタイル。茨文字を解読する、本を読むという行為がフィーチャーされているファンタジー。

 特徴的だと思ったのは、特に魔法の表現において用いられる省略・跳躍を効果的に使った描写。説明するのが難しいのだけれど、魔法で急に出現したり急に場所が変わったりしたことが、そのまま急に文章に落とされている、というか。客観的な説明ではない、夢の中の意識の感覚に近いような言葉が不思議で楽しい。後半、普通だったら禁じ手っぽい視点の移動とかがさらりと横行してくるのも魔術的だ。また、キャラクターが多い中でそれぞれの魅力がしっかりと作られているのも良くて、自分はテッサラが一番好き。幼さを残しながらも明らかに王の器というか、肝が据わっているのがいい。

 終盤でケインがしていることが明らかになったとき、さらに茨のシステム(?)が明かされた時にはかなり引き込まれた。怖すぎるだろ。ここまでの積み上げの構成力が凄まじく良くて、しかしその分ラストは急に終わらせた感じが若干あり、ネペンテスは結局それで良かったのだろうかとはちょっと思った。

 表紙に角の先が燃えてる謎の鹿が描いてあるのがめちゃくちゃ気になるのも良かった。ちゃんと登場しました。

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