【感想】『怪奇短篇集 それぞれの白昼』阪井マチ、佐々木和泉(紐々書房)

 文学フリマ東京35にて頒布された同人誌。私はBOOTHで入手しました。来月の文学フリマ東京37でも販売されるようです。

 とても面白かったです。続けて読んだ形ですが、サークルの前作である『怪奇短篇集 夜の水族館』よりも破壊力の高い話が多く、自分はこちらの方がより気に入りました。以下特に良かった作品について。

 佐々木和泉「眠れぬ夜に蓋をして」は、一歳になったばかりの息子と共に暗闇の寝室にいる母親が寝付けないことを独白し、様々に内省を巡らせていく話。次から次へと不安が生まれどうにも寝付けないという状態にはじめは共感できるのだが、次第に主人公の意識や記憶に不穏さが混じりはじめる。このぬるりとした切り替わり方が絶妙。後半の回想シーンに至っては主人公はまるで共感できる人物像ではなくなっていて、そこで得た不穏さをリフレインさせた上での結びのシーンは、まさに暗闇の中に投げ出されたようでとても良かった。

 阪井マチ「植物のある風景」は、主人公が自室の中に出現するようになった「車輪」に悩まされる話。はじめ「車輪」は部屋の中に出現しては花や草を残して去っていくちょっとした存在だったものが、その挙動は徐々にエスカレートし、やがて主人公は命の危険を感じるようになる。というあらすじが多分前半であり、後半はそこから想定の展開を見せてくれる。後半の話運びが、その奇妙で不穏な内容的にもすごく好きで、さらにそれがこの前半からそうなるというのがめちゃくちゃ良かった。最後のセリフ、ぐっと来る。

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