あなたの人生の物語 | テッド チャン, 浅倉久志 | 英米の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon
なぜか読んだ記憶があるんだけど記録されていないので多分読んでいなかったのだと思うので読んだ。
導入というか設定がドンと強くて、でも最後そこで(それで)終わっちゃうの?となるパターンをいくつか感じた。たとえば「バビロンの塔」(浅倉久志訳)と「七十二文字」(嶋田洋一訳)はいずれも途中すごくワクワクして読めたのだけれど最後突き抜けてくれなかったように思う。最後まで良かったなと思った特に好きだった作品が以下三作。
「あなたの人生の物語」(公手成幸訳)はかなりテクニカルな話で、(ネタバレ注意)順序性、時系列性を重視しないというか持たない言語を操るヘプタポッドと対話し、その言語を習得した主人公が行っている娘に関する回想が、過去ではなく未来の幻視である(順序性を無視した認識様式を獲得している)という仕掛け。SF的アイデアがある種の叙述トリック的な小説構造に接続しているのがとても好き。静かな語り口が、知ってしまうことの寂寞感のようなものを表現していると思った。そして改めて映画化は良い仕事をした(映画というフォーマットで新たな作品とした)と思い、両方が違った形で良い作品なのは、良いな。
「地獄とは神の不在なり」(古沢嘉通訳)は、ランダムに降臨する天使が救済と災厄をもたらすものとして自然災害のように扱われている世界を描いていて、読者を引き込む設定をどんどん繰り出しながら設定遊びに淫することは全くなくドラマを描いてあるのがとても良かった。こういうなんか、この設定で一晩戦えるぜみたいなの出してから一人(数人)の人間の話するのが成功していると惚れ惚れしてしまう。
「顔の美醜について――ドキュメンタリー」(浅倉久志訳)は、美醜失認処理を巡る問題に関するドキュメンタリーのインタビュー形式小説。展開される議論がとても精緻でよく計算されており、素直に読んでいくと美醜失認処理に対する賛否をひたすら揺さぶられる形になる。(この作品のフォロワーが結構あるとはいえ)書かれた時点でも特別に新しい題材というわけではなかったはずと思うけど、それでもそのアイデアをじっくりと掘り下げることで読者を真にこのドキュメンタリーの視聴者にさせてくれる作品。