【感想】『圏外通信 2023』反-重力連盟

圏外通信 2023 - 反-重力連盟 - BOOTH
SF 的文芸による重力からの解放を目論む秘密結社、反-重力連盟による SF アンソロジー。 [A5判・76ページ] 圏外通信 2023 著者 脊戸融/佐久間真作/xcloche/空舟千帆/巨大健造/庭幸千 編集 赤草露瀬 発行所 反-重力連...

 文学フリマ東京35の新刊。私はboothで入手しました。

 以下作品の内容に触れています。

脊戸融「朔月」

 巨大構造体を作る機械の話。冒頭に月下独酌が引かれていて、タイトルと合わせて、末尾に「わたし」が目に(?)しているのは月で、孤独であった「わたし」が月と自分の影と三人で親しむところにたどり着いた……という風に読むとなんだか救いがある。機械のパートから「わたし」のパートへの切り替わりでのイメージも鮮やかで良かった。

佐久間真作「二〇██年度反ミーム部門職員採用試験」

 SCP的なやつ。わかんない。俺はこの試験受からない。一家の父親にあたる人物が不在であるが、映画であったりエヴァンの趣味のコレクションであったり等で存在していたことが示唆されていて、ハンナが「やっつけた」のが父親であって、なぞなぞになっている凶器はおそらく包丁、殺したのはエマが虐待を受けていたからで、妊娠もそのときのもの、あたりまでは分かりやすく設定されているように読めるんだけど、それが間取りの問題とエヴァンの喧嘩の問題に上手く繋げられない。認識阻害的なアノマリーであることは推測ができて、ソファが奇妙に空けられているので死体はいまもソファの上に乗っているのか? でもカーペットの上で映画を見るルールは以前から存在していてそれは認識されていない父親が定めたように感じられるけど。映画を見ているときの位置関係もしつこく繰り返されてるけど意味がわからなかった。間取りが証言の通りだと父親の部屋が存在しなくなるから、オカルトグッズから考えたらエヴァンの部屋が元は父親の部屋だった? エヴァンはどこにいたんだよ。でエヴァンが喧嘩したことになっている相手がそれを認識していないのでエヴァンが何か異常なのかという話になるんだけどハンナが包丁で父親を刺したところからどう繋がってくるのか分からない。ハンナは自分のしたことを認識しているらしいほのめかしがあるから認識阻害されてもいない?

xcloche「グレート・マッスル・ワンス・アゲイン」

 本書内で一番好きだった作品。新心身二元論でスポーツが変容する設定はいかにもなSF感があり、引き込む力が強かった。さらに時間遡行トレーニングで引きを作ってくるのも良い。楽しい。タイトルもなんか楽しい語感で良いし、「ワンス・アゲイン」が時間遡行トレーニングで二重の意味を持ってくるのも上手い。最後の遡行の意味がいまいち読み取れていないかもという気がする。

空舟千帆「一本の紙巻き」

 オチで煙に巻かれた感があり(紙巻きだけにな!!)悔しいんだけど、どういうことだろう。脳から作られた紙巻きを吸って脳の持ち主の半生を幻視して、それで、中年とも言えない年齢だったところから病室で腕に刻まれた皺、というのは訪れた運命というのは老いっていうこと? あ、桃源郷だから時間の流れが違う的なやつ? それとも最終段の「きみ」はむしろ異星の桃源郷みたいなところに暮らしていた人物の方で、それは人間のような皮膚のある腕をしてはいなかったので……そこまでは読めないか? 短い中に良いイメージが溢れていて心地よい掌編。

巨大健造「アノマリアンズ エピローグ・プロローグ」

 もう終わった後の話っていうのが寂しくて良い。3チャンネル使うとことやくしまるえつこメトロオーケストラめちゃくちゃ好き。偉大な詩人に由来のとこでめちゃくちゃ笑ってしまった。

庭幸千「図書館の澪標」

「バベルの図書館」の亜種みたいな世界を垂直方向に攻めていく(?)話。本の文字数とかの設定が微妙に本家と違うのはちゃんと考えた意味がありそうだなと思ったけどわからなかった。でもこの無限(のように思われる)世界において重力の存在が鍵になるかもしれないしならないかもしれない、というのを絡ませてきたのは面白いし、目指す先が「海」になったのが一本取ってる感じがする。海を目指すのは、なんかいいじゃないですか。エンディングも良い。

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