【感想】『少女椅子 怪奇幻想アンソロジー』眞崎十一 編

「少女椅子 怪奇幻想アンソロジー」(目眩 Peyotl / 文学フリマ東京37 き-21) - 文学フリマWebカタログ+エントリー
文学フリマ東京37(2023/11/11(土) 12:00〜)【目眩 Peyotl】のアイテム「少女椅子 怪奇幻想アンソロジー」をチェックしてみよう!

 文学フリマ東京37にて入手。少女と椅子を題材とした広義の怪奇幻想、ミステリ、エログロナンセンスなどの短編を集めたアンソロジー。テーマに相応しく怪しい話ばかりで面白かった。表紙の存在感がすごい。また、収録作を枠物語的に扱う幕間の演出も面白い(黒字に白がちょっと目にきついけど)。

「こだわり抜いた素敵な椅子」さびき

 前原家の関係者の聞き取りで構成した、自殺した姉と彼女を慕っていた妹についての話。「少女椅子」ってこういうイメージだよなというテーマに対して真正面の作品がトップバッターでしっかり投げ込んできたという印象だった。

「湖の中の人魚」ソルト佐藤

 脚を悪くして病院で車椅子生活となった主人公が、病室から見えるビルの屋上に「人魚」を発見する。変化球が来た。姉妹というのは「こだわり抜いた素敵な椅子」から続いているのだが、構図は複線化し、椅子の使い方もトリッキー。けれどミステリをやりつつも、それでもトリックの書き方など怪奇小説的な味が出ているのは上手い。

「少女」君野新汰

 主人公は、ごみ集積場で出会った「少女」を家に持ち帰り、密かに愛するようになるが、少女を狙うものたちが現れる。語り手の狂ってる具合の出し方の案配というか、「少女」の描写で少しずつ出していったかと思うと警察二人が来てちょっと戻して……と思ったらあんまり戻ってない(という解釈をした)、みたいな揺らし方が上手いと思った。

「総統閣下の玉座の話」No.37304

 日本が第三帝国との戦争に敗れその属国となった世界で、戦後十年ごろに初めて行われた「活御座の巻狩り」において獲物役である「活家具」の双子の少女による仇討ちのエピソードを紹介する。めちゃくちゃ濃い。これはすごい。「活家具」や「活御座の巻狩り」の設定、仇討ちのドラマ(曾我兄弟の仇討ちのオマージュか)だけでもう分厚いところ、大本の歴史改変要素は一体なんなんだ。それヒトラー要る!????(まあでも、要るんだよなマッカーサーじゃ締まらないよな)とか思いながら、でも読まされてしまった。すごい。

「少女を駄目にするソファ」いぬじゃら

 ネットで知り合った友人が密室状況で自殺し、その兄に事情を聞かれる主人公。これも椅子の範疇を拡張することで色んな可能性を示していて、オープン気味の結末が怪奇との相性が良い。ビーズクッションがギミックになるの上手いなと思った。

「異常回遊紀行」羽暮

 人を殺し家具にしつづけてきた主人公が、完璧な少女机に比類する少女椅子を求めて女学院に入る話。タイトルの通り異常がコンセプトと思われるので常識で読むべきではないのであろうところ申し訳ないのだけれど、性自認の下りなどが異常を一歩引いて楽しむのを超えて引いてしまって入っていきづらかった。

「椅子と愛と虐と」宇津木健太郎

 理由もわからぬまま椅子だけが置かれた部屋に監禁されることとなった女学生の話。監禁状態の心を壊してくる感じが普通に怖くて心に来て、他の収録作よりも一回りホラー度が高い(他の収録作はグロテスクな作品は多かったが、そんなにホラーではなかったと思う)。監禁していた側がやろうとしていたことがわかるようでわからないようで、絶妙なラインの気味悪さもとてもよかった。

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