サラ・ピンスカーの流れが来たので読んでしまった。『いずれすべては海の中に』の収録作のいくつか、それに“Where Oaken Hearts Do Gather”にも通じるところがある、不気味な読後感が良い。面白かった。
久しぶりに帰省した主人公のStellaは、両親から、幼なじみであるMarcoの兄、Dennyが今週亡くなったことを聞かされる。葬儀を訪ね、Dennyがいわゆる「ゴミ屋敷」状態の家に住んでいたことを知ったStellaは、その整理を手伝おうと申し出る。このStellaには虚言癖があり(しかし何でも適当に嘘をつくというのではなく、相手がすぐに確認できないような内容で、一貫性のある嘘をつくというポリシーを持っている)、Marcoと思い出話をしつつ、今の自分は離婚していて一人息子がいてコーヒー販売会社で営業をしている、などという全くの嘘を語ったりもする。Dennyの遺品を整理している最中、Stellaはふと「The Uncle Bob Showってテレビ番組、覚えてる?」と尋ねる。これも全くの嘘で、そんな番組は存在しない……はずが、Marcoは覚えていると応じる。Stellaが混乱しながら話を合わせていると、Dennyの遺品の中からそのローカル番組・The Uncle Bob Showを録画したテープが発見される。黒ずくめのスタジオにDennyを含む地元の子供たちが集められおもちゃで遊んでいる。そこにUncle Bobがやってきて、カメラ越しにこちらを見つめながら不可解なエピソードを語る。Stellaはこの怪しげな番組について何も覚えていないし、検索してもインターネットには一切情報がない。しかし母親によれば、他ならぬStella自身、スタジオで出演したことがあるという……。
実在したかどうか定かではないが幼少期の記憶にある怪しいテレビ番組、というのは都市伝説の類型に多いし、Torのコメント欄でもCreepypastaだ!というコメントが目につく。それこそ”Where Oaken Hearts Do Gather”はそのまんま掲示板の形式だったのに対して、これは形式は素直な短編小説なんだけど、内容的にはかなりCreepypasta。ただ、単にweirdな怪談を「あるある」的に提示するのではなくて、StellaとMarcoの幼少から思春期までの回想のノスタルジーや、Uncle Bobの語る不気味な小話のディテールの掘り下げがしっかりしているのが素晴らしく、そういう精緻で丁寧な仕事が最後のオチの飛距離に繋がっていると思う。ついでにいうとオチ自体、単体ではありがちなネタだと思うけど、総合力で突破してくる感じがあった。これも作者の持ち味・持ち技っぽい。