翻訳小説を世に送り出す素晴らしい取り組み。以下、良かった作品の感想。中でもG・V・アンダーセン「シュタインゲシェプフ」とセス・フリード「メンデルスゾーン」が特に良かった。
G・V・アンダーセン「シュタインゲシェプフ」(藤川新京訳)
かなり好き。最初キャラクターがどこまで人間なのか読みにくいみたいなところが若干あったけど、幻想の度合いが見えるとぐんぐんと引き込まれた。芸術観の話、それぞれの回想、ドイツとフランスの歴史的な香りとままならなさなど多くの要素がうまく絡み合っていて、深みのある読後感になっていた。ベッドやわらかくなかった小ネタみたいなのも好き。
マシュー・クレッセル「エンジン・ラブ・オプティマイゼーション」(藤川新京訳)
ハッカーバトルみたいなところはコミカルで好きなノリ。叙述トリック的な要素があったけど、そこはこれ要るのか?とは思った(叙述トリックの結果明かされる設定自体は良いと思うのですが)
ホリス・ジョエル・ヘンリー「アウター」(平海尚尾訳)
紹介文にあるとおりイメージが鮮烈な作品。病んだ姿に変貌したビーチの描写が印象に残った。
セス・フリード「メンデルスゾーン」(白川眞訳)
とても好き。巨大アライグマとの戦いのコミカルさで話が進むけれど、そのなかで今まで知らなかった父の側面や姉弟の関係の変化(のきざし)が丁寧に描かれていく。メンデルスゾーンを想うラストシーンが入ることによってその主題がぐっと深まるのがとても良かった。
ラフィアット・アリユ「いつまでも夫に愛されるための五八のルール」(西村取想とシタギセール=カオル訳)
ブラックユーモアでニヤつきながら読める。オチは怖い。
A・T・グリーンブラット「バーニング・ヒーロー」(藤川新京訳)
本作のみ原語で既読。そのときには繰り返されるWatch Sam burn.の構文がどういう演出意図なんだろうというのが気になっていた。この翻訳では「サムが燃えるところを見てみよう。」で、なんかちょっとわかったような、やっぱりわからないような気持ち。ただ、そこから展開したラストシーンの語りが印象的だった。
レティー・プレル「新鮮な空気」(藤川新京訳)
肉体捨てる系の話と母子の話で材料自体は珍しくないが、施設の描写やフードや浮上まわりの設定、それに主人公が従事しているベータテストの不思議な描写などが興味を引いて面白かった。最後の方で犬が描写されるところも上手い。
白川眞「単数Theyの発明と翻訳の可能性」
評論。面白かった。自分も複数Theyに無意識に「彼ら」をあてがちだなぁと思った。新語が必要そうというのは確かにその通りだなと思う。一方、それはどこから生まれるんだろうと思うとあまり想像がつかない(少なくとも文芸翻訳からは……)。勢て。