【感想】”Just Enough Rain” by P H Lee

Just Enough Rain - GigaNotoSaurus
1. The Funeral I wasn’t surprised when God showed up for Mom’s funeral. They’d always been close. He slipped in the back...

 とても面白かったです。

 母親の葬式に神が参列していて(母と神は仲が良かった)、主人公が話しかけると神は主人公さえよければ母を蘇らせようと思うと言って、実際に母親が生き返る。その生き返った母親に、生きてるうちに孫が見たかったといわれ(生きてるんだけどな)、38歳独身女性の主人公はそれをあしらい続けるんだけど、母親が神に電話して頼んだと言いだし、主人公が電車に乗っていたらいきなり神の使いとして天使が登場、乗り合わせた男に対して主人公とデートしろと告げる:

“TAKE HER SOMEWHERE NICE, NOTHING TOO FANCY, IN THE $20-30 RANGE,” continued the angel, just when I thought that this couldn’t get worse. “ARGUE ABOUT WHETHER TO SPLIT THE CHECK BUT THEN PRETEND TO GO TO THE BATHROOM AND SECRETLY PAY.”

Just Enough Rain by P H Lee

 このギャグパートが面白すぎてここでめちゃくちゃ引き込まれてしまった(天使の発話は全て大文字で表記される。笑うでしょ)。このあと主人公はここでやってきた天使に興味を持ち、天使とデートがしたいから連絡先を教えて欲しいと神に頼む。神は「前にそれで失敗したから……」と言葉を濁す(鉄板ではあるがこういうギャグに弱い)。

 そんな感じで神や天使とのやりとりが普通に発生し、聖書ネタがギャグとしても真剣なテーマとしても扱われている不思議なユーモアに満ちた作品。真剣なテーマとしてはタルムードのHoni the circle drawerの物語が引かれていて、タイトルにも繋がっており、すごく圧縮してしまうと、神に祈る、頼むってどういうこと、みたいなテーマなのかなと自分は思った。なかなか日本語の作品ではこういうテイストは読めないので面白い。

 神や天使の神性と卑近さのアップダウンがともかく良くてエンタメとして楽しくて、たとえば冒頭から登場する神のセリフはいかにも軽い、普通の人間っぽい描写がされるけれど、過去回想の中で主人公が初めて出会ったときの神の神性が迸っている様の表現は力強い。天使にしても同じで、詳細は中盤以降のネタバレになるので書かずにおくけど(ぜひ読んで欲しいから)、超越的な存在としての側面とそこに見いだされる人間らしさのギャップで楽しませてくるのが上手い。

 ギャグを交えた神学のはなしに加えて、恋愛の話だったり、翻訳の話だったり、オオカバマダラの話だったりと結構色んな要素、サブテーマみたいなものが入ってきていて、ユーモアの牽引力に引っ張ってもらいつつかなり盛りだくさんな内容で、満足感が高かった。最後の結びは少しふわっとしてしまってるんだけど(大洪水ではないと思いたいが)、序盤の引き込みから十分楽しませてもらったのでこの渡され方で全然良いなと自分は思った。良かったです。

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