【感想】The Year’s Best Science Fiction Vol. 2: The Saga Anthology of Science Fiction 2021(2/2)

 後半戦です。前半はこちら

Go. Now. Fix. – Timons Esaias

  • パンダ枕がみんなのピンチを救うために戦う。
  • しばらくPandaPillowをPandoraPillowに空目してて物騒すぎるなとか思ってた。そうじゃなくてかわいい話だった。
  • 最初状況がよくわからずもうみんな死んじゃってるのかとか思ったけど、そういうのでもなくて、かわいい(健気に頑張る)話だった。タイトルも冷たい命令じゃなくて自分を鼓舞する(?)掛け声みたいなイメージ。
  • けなげなロボやドローンやAIはやっぱり流行の題材らしい。時代のリアリティがあるのかもしれない。充電してにゃぁ~!!!!
  • サポートセンターとの通話や解像度云々、100% inflationなど細かいネタも楽しい。

Burn or the Episodic Life of Sam Wells As a Super – A. T. Greenblatt

  • 発火能力に目覚めてスーパーヒーローの仲間入りをするけれど。
  • 多分定番なんだけど自分があまり通っていないメタスーパーヒーローものの文脈っぽい。
  • それに引きずられているのかもしれないけど、ちょっと小説向きっぽくないことをしていないだろうか、と感じた。
  • 繰り返される「Watch Sam ~」はどういうニュアンスなんだろうというのが気になった。「みて、サムがXXXだよ」みたいな絵本的な言い方をイメージして読んでたけど、違う気がする。
  • 邦訳がバベルうおから出ている(未読)。

How Quini the Squid Misplaced His Klobučar? – Rich Larson

  • サイバーパンク的なスペインで因縁のある男の家に侵入しようとして云々。
  • podsickというアイデア(フルダイブしすぎて現実と区別がつかなくなる的な)やその描写がよかった。
  • 全体的には英語が難しいのかよくわからなかった。

The Final Performance of the Amazing Ralphie – Pat Cadigan

  • ホスピスの患者に与えられる対話AI、の管理者の主人公の目の前で患者が死んでしまう。
  • AIの責任を取らされる担当の人間という設定はリアリティがあって良い。
  • ケアを担うAI、そのAI特有の煙に巻く答え方、なんか知りたいならお前自分で生ログ読めよみたいな煽りなどの質感が好き。
  • 前半と後半でテンションが違い過ぎてバランスは崩れている感じがある。

Yellow and the Perception of Reality – Maureen McHugh

  • 何らかの認知に関わる実験をしていたときに障害を負ってしまった妹(姉だったかも)に関する真相を追う。
  • 心身問題という題材や、描写やセリフのそれっぽさ、キャラクターは魅力的だった。
  • とはいえ、あえてなんだろうけれどもさすがに謎が解けていなさすぎる気がする。
  • タコの心身問題を意識しているのだろうか?

Father – Ray Nayler

  • 戦争で父を亡くした少年の家に、国家プロジェクトで貸与されたロボットお父さんがやってくる。
  • 悪人がめっちゃ悪くて凡庸なのが良い!
  • 戦争が壊してしまったものの重さが、故人である父もそうだし、FATHERのほうにもかかってくる構成がよかった。
  • 警察の露骨な対応とか、アメリカの田舎感(偏見すぎる)っぽい。
  • 父親代わりの存在との交流、というベタなプロットと、ロボットというこれまたベタな題材が組み合わせたときに面白い味を生んでいて好きだった。

Don’t Mind Me – Suzanne Palmer

  • 少年少女の健全な育成のために不健全なものを認知できなくさせるデバイスを装着させられている子供たちが親の目を盗んでデバイスを無効化するクラブを作り。
  • このデバイスの設定が、単にディストピアだよねと片付く空想的すぎるものではなくて、この主人公のいるところみたいに積極的に使われている州もあれば禁止した州もあって、みたいな話が出てくることで、一気にリアリティのある居心地の悪いものになるのが良い。進化論教育問題とか。
  • ただこのガジェットならではの掘り下げがなかったのが物足りなさもあった。
  • 脳に食い込んでるデバイスなのに磁石使うとか原始的すぎていいのかよとか、反体制ぽいことやってるけどやるの勉強会かよ、しかもテスト良い点取って喜ぶのかよとか、奇妙なアンバランスさはちょっと面白いところ。

The Suicide of Our Troubles – Karl Schroeder

  • 外部不経済の解消で殖える暗号資産のスマートコントラクト上に実装されたAIの「水銀」が依代の女の子の口を借りて自死(=公害の解消)を手伝って欲しいと主人公に頼んでくる。
  • 掴みが強すぎる。設定が盛り盛り。かなり楽しい。
  • 単語は難しいけれど文体は軽くて読みやすい。結構深刻な問題を規模の大きなSFガジェットで扱っている割にポップにまとまっているのも良い。
  • Donnaがかわいい。
  • 天丼(タクシーとか)が好き。
  • 色んなAIが来るとこがかわいい。ちょっとファンタジーっぽさもある。

AirBody – Sameem Siddiqui

  • Airbnb感覚で、身体を貸し出す男。
  • タイトルの言葉遊びからの一発ネタで終わっていない深さがあってよかった。
  • 身体を貸すというのと、それでするのが料理っていうのが、体性感覚とリンクしていて厚みが出る感じが好き。その料理にパキスタン要素があるのも良い味付けだし、作ったものにも役割があるのが良い。
  • 自分の普段住んでいる家でAirbnbやるっていうのは心理的ハードルがあって、でも別にない人もいて、本当はあるけどないことにしてる人もいて、などなど色々ありそう(未経験なので想像しかないけど)というところに、さらに身体となったら普通はかなりハードルが高いであろうところ、この二人の場合は貸す方も借りる方もちょっと自棄っぽい。そういうのが言及はされていないけど読み取れるのはこのアイデアの使い方がすごくうまい。

The Transition of Osoosi – Ozzie M. Gartrell

  • True Americansに虐げられているCitizen Americans(二級市民)が革命闘争ハッカー集団に入って戦いに身を投じるためのイニシエーション。
  • 英語が結構難しい、一人称のだるさみたいなのがちょっとある。
  • 結末が暗い……。けど単に暗すぎとか文句を言うのは安全圏からのコメントだよねみたいに自己ツッコミを入れたくなるリアルな世相もアメリカにはある。
  • でもマルコムは直球過ぎないか。

If You Take My Meaning – Charlie Jane Anders

  • 人類が入植した惑星に、テレパシーで集合知性を持つ先住民がいて、その先住民の器官を胸に移植すると云々。
  • 読書会で教えていただいたところ長編のスピンオフっぽい話らしく、その長編のあらすじを読んだら8割わからんから5割わからんくらいまでわかるようになったけどやっぱり難しくて5割はわからなかった。

Beyond These Stars Other Tribulations of Love – Usman T. Malik

  • 年老いた母を介護しつつ仕事で恒星間宇宙旅行に旅立つので、地球に機械身体をおいて、宇宙船内の自分とその機械身体のあいだで意識が同期できるようにする、でも宇宙船が高速で移動すると……、という変則時間SF。
  • アイデアがよかった。ウラシマ効果(とはこれはちょっと違うのかも知れないけど)を扱うとどうしても時間に引き裂かれる二人的なエモい方向にいく先行作品が多い気がするけれど、これはその効果をある意味ポジティブに捉えているのが面白い。
  • Work from homeで家族との時間が取れるようになりましたみたいなCOVID Realityと逆をやってるのも面白い。宇宙に旅立つけど親の介護も両立する。
  • 宇宙船内と地球のあいだの意識の切り替わりの書き方もよかった。

A Mastery of German – Marian Denise Moore

  • 同じミトコンドリアハプログループ内で記憶を移植できる技術の研究。
  • キャラクターや台詞回しがよかった。やりとりが軽妙。
  • けどなんかオチがしっくりこない不完全燃焼感。結局Victor何者だったんだろう。
  • ミトコンドリアハプログループを題材として導入していて、主人公の母親の先祖の話が思わせぶりにちょっと言及されたり、黒人の社会的な記録が追いにくいみたいな話題もでてきたりとか、なんか掘り下げたら面白そうな材が転がしてあるけど特に拾われなかったのもむずむずした。

How to Pay Reparations: A Documentary – Tochi Onyebuchi

  • AIが算出する給付金で所得などの居住地格差を是正しようとして失敗した自治体のモキュメンタリー。
  • ドキュメンタリー番組を意識しているので最初にカメラのカットがあってそのあとがインタビューになっている。カメラのカットがいかにもドキュメンタリーっぽい絵作りなのが文章でもわかるのが面白い。でもインタビューの語りから起きた出来事を追いかけていくのは英語的に難しさもあった。

Sparklybits – Nick Wolven

  • 契約で集団子育てをしているらしい母親たちと、その息子(さいきんAIの友だちができた)の話。
  • なんでこの母親たちが集団子育てしているのかは書かれていないけれど、普通に考えてどうやってこのメンバーでやろうってなるのか謎な絶妙なギスギスさで読んでてドキドキしてしまって良い。
  • 子供が親世代には理解できない3Dのなにかを作ってる下りは、マインクラフト的な発想だろうけど、よかった。
  • 近未来ガジェットと思われる造語が多数で最初意味がわからないけど読み進めるとなんとなくああいう感じかなという絵が浮かんできて楽しい。

The Search for [Flight X] – Neon Yang

  • 行方不明となり結局見つかっていない旅客機FLIGHT Xを探し続けて海底を探査する主人公。
  • 海底探査のときに入っているアバターの利用契約上その意識が記録されているが個人情報などはマスキングされるという言及がされていて、おそらくこの小説自体がその記録であるという作りは面白い(それが何か効果的なのかと言うと、わからないけど)。
  • 執着の理由が終盤さらりと示されているところはよかった。
  • 最後答えが出ない感じで終わったのは物足りない。

 全体を通して特によかった三つを選ぶなら、結果的に全部前半の記事の作品だけれど、A Guide For Working Breeds(かわいい)、The Pill(こわい)、The Bahrain Underground Bazaar(かっこいい)。

 次点群が、50 Things Every AI Working With Humans Should Know、The Suicide of Our Troubles、Father、AirBody、Beyond These Stars Other Tribulations of Love。

 前半のところにも書いた通りで、読書会に参加することで最後まで読み切ることが出来、本当に良い経験になりました。参加出来てよかったです。まず英語の小説を読もうという発想があんまりなかった(学生以来かな……)ところ、読んでみると意外に読めるとわかったのが大きな収穫。まあ読書会の日が決まってるから読めるという力が大きいので、自分一人だと投げちゃいそうなところはありますが、時々読んでいきたいと思います。また、これだけ本数の多めのベストSFなので(一旦編者を信じるとして)英語圏SF界の流行題材みたいなのが見えたのも面白かった。

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