【感想】『羊式型人間模擬機』犬怪寅日子

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 男が死の間際に羊になり、子らがその肉を食べるという儀式を行う一族の話。どうやら機械かなにかであるらしい、一族に仕え御羊を捌く役目をする「わたくし」が独特の文体で語る。

 冒頭に家系図が載っており、おっ冒頭に家系図が載ってるタイプの幻想SFじゃないかと思った。冒頭に家系図が載ってるタイプの幻想SF好き。「わたくし」の根本であるとか(総称する音はあるけれど文字にできないのが面白い。ここでは「わたくし」と書くしかない)、御羊の仕組みというか意味というかそういったものであるとか、設定についてはほとんど明らかにされず、ただひたすらに一族の記録が独特の文体で繰り広げられるので、癖があり好みの分かれる作品だろうと思う(羊肉だけに)。自分はその癖具合がとても好きだったので楽しかった。「わたくし」が一心に仕事に励むスピード感のある語りは可愛らしいし、思い出が再生されてしまっている状態から元に戻ってくる瞬間の鮮やかな切り替わり方が好きだし、混乱しているときに一族の面々が「わたくし」に向ける優しい眼差しにはあたたかさを感じる。ある種、一族の年代記的な内容なのだが、記憶を行き来する構成であることで年代記の形にはなっておらず、それが人名のわかりづらさ的にリーダビリティを損なっている部分は確かにあると思うんだけど、この文体でやっていくのにリーダビリティとかじゃないだろと思うのでそこは何も問題ないと思う。家系図もついてるし……。里木・日向・真昼の繋がりも陸夜と桜李の繋がりも良かったけど、いずれの繋がりにも「わたくし」の存在があった(というか、「わたくし」によって語られているのだからそれが必然である)のがとても良いところ。人間ではないものと人間との間の愛の話。

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