【感想】『幽玄F』佐藤究

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 主人公の易永透は、空へのオブセッションから戦闘機F-35のパイロットとなるが、超音速の世界で蛇の呪いに遭う。透の少年時代から、自衛隊時代、そしてその後。舞台も日本からタイ、バングラデシュへと展開していく。

 大変残念なことに三島由紀夫を読んでいない。本作は三島由紀夫へのオマージュとなっていて、そのために自分は作者の意図したところの半分しかそもそも読める読者ではなかった。けどもう半分が超絶にすごかった。ほんとうにマッハの小説。致命的に何かが欠けていて空を求める透の少年時代、溝口との交流と戦闘機との出会い、あたりは、どこへ行くのかわからないままに静かな語り口に心地よく読み進めていたが、第二部から一気呵成、もう止まらなかった。空の青は死の補色、護国、義の行動とは垂直的、など、鋭すぎるフレーズが一作の中に何本も繰り出される。ひとつの人生、運命の話、と思って読んでいると、終盤に入って残りがどう噛み合うのか見えてきたあたりで、そのひとつの人生に交差した複数の人生のことが浮かび上がってくる、そしてその交差の仕方がまた運命的であり、最後にそれが円環であること、ある種の引き継ぎが発生していることが示唆されて終わる。なんだったこの小説は。すごすぎた。

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