【感想】『彼女。 百合小説アンソロジー』

Amazon.co.jp: 彼女。: 百合小説アンソロジー 電子書籍: 相沢 沙呼, 青崎 有吾, 乾 くるみ, 織守 きょうや, 斜線堂 有紀, 武田 綾乃, 円居 挽: Kindleストア

 百合小説として世に求められてるのってこういう感じなのかな、とか、逆に自分は百合小説を読もうと思ったときにどういうものを読みたがっているのか、とかを考えるのによかった。

織守きょうや「椿と悠」

 帰国子女でマイペースの悠と、クラスの委員長の椿の二人が出会い、仲が深まり、しかし勘違いからその関係が危機に瀕し……。

 王道のライトな恋愛小説的スタイルで書かれた百合で、視点の切り替え方とかも定番な感じで、良かった。一冊振り返ると、このアンソロジーの良心枠みたいになっているのがじわじわ面白い。

青崎有吾「恋澤姉妹」

 主人公は、師匠である音切除夜子が、干渉したと判断されると必ず殺されてしまうという恋澤姉妹に接触し殺されたと知り、恋澤姉妹に迫っていく。

 このなんか、名前が変な殺し屋モノ?みたいなやつ(なんかこういうジャンルあるよね……)、自分はよく意味がわからなくて、評価のスタート地点が低いです。その上で、見てんじゃねーよ、というコンセプトは百合というジャンルをメタに見たときの一つのアンサーとして良かった。

武田綾乃「馬鹿者の恋」

 依存体質な幼なじみの萌から好意を向けられている千晶は、それに言葉で応えることはなかったが、転入生の出現で二人の関係が変わり始める。

 内容的にはあまり好みの話ではないんだけれど、でも筆力がめちゃくちゃあって読み応えがすごく、ぐいぐい読まされてしまった。言葉のナイフが鋭い。上手い。

円居挽「上手くなるまで待って」

 現在は小説を書くことをやめてしまった主人公が、自身の文芸サークル時代の作品がネット上に転載されていることを知る。時を同じくして文芸サークル時代に師弟関係にあった繭先輩の結婚披露宴に誘われた彼女は、学生時代に文藝バトルで倒した相手の中にいると思われる犯人を探り始める。

 文藝バトルってなんだよ。なんかもう百合はどっかいってしまった印象で、小説や創作の話がしたすぎるのかなと思った。

斜線堂有紀「百合である値打ちもない」

 ゲームを通じて知り合った乃枝と真々柚は、ペアを組んでプロゲームプレイヤーとなり、プライベートでは恋人同士にもなった。しかし真々柚は、人形のような美しさと愛らしさを持つ乃枝と並ぶ資格がないと考えるようになり、整形について調べ始める。

 本アンソロジー内で一番好きだった作品。現代的でキャッチーな題材とリアル&シリアス要素でギチギチやる感じを併せ持った上で、このポジティブな結末は自分は大好きです。めちゃくちゃ良いよ。

乾くるみ「九百十七円は高すぎる」

 杏華と敦美の二人は、ソフトボール部の前キャプテンの累さまに密かに憧れているという秘密を共有していた。部活帰りの駅で、その累さまと親友・結城さんを偶然見かけた二人は、結城さんが驚いた顔で「え、そんなに?」「九百十七円?」と言うのを聞く。累さまが九百十七円の何かを購入したと考えた二人は、それが一体何なのかを突き止めようとする。

 日常の謎というカテゴリになると思われて、そのネタは出題も解決も好きな内容だった。でもちょっとそこに行くまで本題じゃないとこにセンスのあわなさとか説明過多を感じて、入っていきづらかったと思う。

相沢沙呼「微笑の対価」

 美貌を持ちながら高慢なお姫様のように無愛想で、高校のクラスでも浮いていた紫乃と友達になった優香は彼女の世話を焼き関係を深めていった。高校卒業後、一旦二人は疎遠になるが、久々に紫乃から連絡を受けた優香は、紫乃が妊娠しており、その子の父親である交際相手が実は既婚者であったことを打ち明けられ、その男との話し合いの場に立ち会ってほしいと頼まれる。

 いわゆる、死体を埋める百合。死体埋め部分というか、警察に揺さぶりをかけられるシーンとかの描き込みがすごくて面白かった。本気ではなかったところが本気になってしまった、みたいな作りも好きで、時間軸の長さをしっかり使った情愛モノとして強さを感じた。最後の方に出てくる占い師は何者なんだよ。

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