【感想】『カモガワGブックスVol.4 特集:世界文学/奇想短編』カモガワ編集室 編

『カモガワGブックスVol.4 特集:世界文学/奇想短編』刊行のお知らせ|カモガワGブックス
われわれがこの本を作った理由 カモガワ編集室(鯨井久志)  激動する世界において、その様相を語り伝える文学。現実と非現実、双方からのアプローチなしには記述し得ない複雑な「世界」を表現する文学作品たちの魅力に、レビューや評論、翻訳によって迫る...

 文学フリマ東京37にて入手

 カモガワGブックスは非常に力の入ったレビュー・書評が載っていて楽しいところ、いかんせん対象の作品を自分がほとんど読んでいないので、既刊は読んでなかったり感想書いてなかったりしたのですが、今回は「カモガワ奇想短編グランプリ」受賞作品の掲載があったのでそれをメイン目的に読んでおり、以下がそれの感想です。

「カモガワ奇想短編グランプリ」はサークル・カモガワGブックスが開催した短編小説賞。翻訳家・書評家の鯨井久志さんが審査を行った。

 なお、以下で奇想とはこういうものだよねみたいな偉そうなコメントをしているが、私の奇想という概念に対する解像度は極めて低い

石原三日月「窓の海」

 大賞受賞作。日本某所の海岸に現れる、海面が無数の様々な硝子窓に覆われた状態に変化してしまう〈窓の海〉という奇妙な現象が題材。

 直球の奇想、というと語義矛盾があるような気もするけれど、コンテストのお題に対して正面から投げ込んできたという印象のある作品で、大賞に納得感があった(掲載四作の中で一番好き)。選評でも真っ先に指摘されているとおり、画が素晴らしいと思った。海面が大量で多様な窓になっている(窓が浮かんでいるのではない)という光景は、奇想天外でありながらはっきりとイメージがしやすく、作品世界にスムーズに入り込むことができた。その上で、窓に落ちた先、落ちていった人、あるいは落ちてきた人について、短編の枠内で絶妙な情報量のコントロールの仄めかしが効いていて良かった。

小野繙「幼女の王女」

 優秀賞受賞作。幼稚園児である主人公の娘が突然幼女の群れにへばりつかれるようになる。

 エスカレーションが奇想の、というか物語の型であることは論をまたず、加速していくとなんか怖くなる、というのも効果的な手法で、オチの笑える加減と怖い加減のマリアージュがよかった。指の数とあってないの、あるよね。ただ、自分の側の問題で、自分の中で幼女というのは日常語彙ではあんまりないし、なんとなくこの文体で幼女幼女と言うとゼロ年代オタク感を想起してしまって勝手にキツくなってしまうのがノイズだった(作品悪くなくて、私が勝手にキツくなっているだけです)。

志村麦「天使墜落(私)刑」

 優秀賞受賞作。カンボジアで誘拐された主人公は、子供たちが天使として幸福を感じた瞬間に頭上に現れる輪っかをドーナツとして収穫する工場での労働を強いられる。

 エログロナンセンス系の奇想、という印象。優秀賞を三作選んでいる中で自然ある程度そういうカテゴリ分けというか、違う方向を向いた三つが選ばれていると思うけれど、この作品は生々しい描写力が抜きん出ていて、据えた臭いが漂ってきて本能的な衝動が感じられる作品だった。

織戸久貴「下鴨納涼アンソロジーバトルコンテスト」

 優秀賞受賞作。近未来、アンソロジーを編んでその完成度を競うアンソロジーバトルコンテストという架空の競技についての話。

 架空競技とその列伝を語る、これもまた奇想短編としての一つの型であって、このタイプの作品が優秀賞の一角を占めるのは必然のように感じた。架空と言いつつ結構架空でもないというか、ビブリオバトルみたいなのは実在するのだし、古本まつりで予算内で何を買うか、あるいはオリジナルの最強アンソロジー案を編む遊戯も普通にある(あるよな?)ので、そこまでぶっ飛んではないよね(本当?)、という所の導入から、様子がおかしいデッキが現れたり様子がおかしい編者が現れるあたりのパロディ・目配せで加速する感じが非常によい。きちんとエスカレーションを畳むオチをつけているのもよく、またその内容は生成AIでリプライ欄が汚染される昨今では妙なリアリティもある。

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