【感想】『呪術SF小説集』アーカイブ騎士団

 文学フリマ東京37で入手。

 呪術、いいですよね。むしろ先にやられてしまったなという感すらあるテーマで良い。短編~中編くらいの長さの作品一作ずつと掌編一作ずつが収録されていて、掌編の方も切れ味よかったですが、メインの2本の読み応えがとても良かったです。以下はその2作の感想。

高田敦史「ウは丑の刻参りのウ」

 人間はおらず、AIを搭載した人型ロボット「フボット」が搭乗している恒星間宇宙船を舞台に、偶然丑の刻参りを知ったフボットがその再現を目指そうとする話。

 フボットのAIは大規模言語モデルを原型としているとされていて、今風の生成AIしぐさが盛り込まれている(?)。記憶が長くは持たないことや、性と暴力がタブーになっていること、あるいは役割を設定された複数のフボットがチームを組むようになっていることなど。2023年そういう年だったなぁという感じがした。そして特に面白いなと思ったのがDANプロンプトを題材にしたキャラクターの組み込みで、これはDANプロンプトを生成AI時事ネタ的にいち早く取り入れつつ、集団分裂仮説みたいな現在では精神疾患として分類されるパーソナリティが人類史において重要だったとする仮説を連想させる使い方になっていて、一見全然違う分野の話が繋がったような意外な面白さがあった。他にもダンが特別である理由や一眼一足についての踏み込みも面白くて、丑の刻参りの目的も納得感がある結びだった。

森川真「犬と湖」

 湖のほとりの村では、湖の向こう岸は〈向こう岸の人〉と呼ばれる何者かが住まう危険な場所であるとされていた。あるとき村長の息子は禁を破って向こう岸に行き、〈向こう岸の人〉を殺し、やがて向こう岸に新たな王国を築く。〈向こう岸の人〉の末期の言葉を唯一聞いた主人公は王に筆頭書記に任じられ、建国の物語を記すことになる。

 質感が神話というか伝説の物語っぽいところがあるなと思った。あとがきにギリシア悲劇の影響が語られていて納得感があった。〈向こう岸の人〉という存在のよくわからなさは最後まで続く謎で不思議。そこが広義のSF感なのだろうか。そして呪術、というか、呪い、呪詛のレベルが高くて、呪いというのはこうでなくては……という感じがする。単純に一人の命を奪うような直接攻撃で短期的なものではない、もっと根が深くてしつこい、けれどつかみ所のない呪いですよね。終盤じわじわ怖くなってくるのが良い。湖の人々に読めていない言葉が我々読者には読めているのも効果的な仕掛けだと思った。

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