【感想】『生まれつきの時間』ファン・モガ 廣岡孝弥 訳

inch magazine PocketStories 01 生まれつきの時間 | inchmag powered by BASE
「短篇小説をポケットに」inch magazine PocketStories第一弾は韓国SF短篇小説。人類が一度滅亡したあとの世界。「成長センター」で目覚めたアルムはすでに十五歳だった。生殖能力をなくした人類を再生するプログラムで急速な教...

 文学フリマ東京37にて入手。

「成長センター」で目覚めた主人公は、産声を上げるかのように初めての言葉を発する。主人公は自分が十五歳であること、長い眠りから目覚めたところであること、眠っている間にも教育を施されていたことを告げられる。

 ポストアポカリプス・ディストピア的なふんわりとしたSF設定を通じて(ふんわりとしているところがよくて、SF設定を詰め過ぎない良いバランスがあると思った)、成長することへの強迫、「生まれつきの時間」を持てないということ(あるいはあとからそれを生きること)が寓話的に描かれる。悲しさや悔しさに満ちた世界の話ではありつつ、主人公の選択に一縷の希望を感じさせる優しさがあった。後半の対談において「止まる、戻るという部分に心の豊かさがある」という読み方が言及されているけれど、自分にはそれがとてもしっくりきた。

タイトルとURLをコピーしました