Amazon.co.jp: AIとSF (ハヤカワ文庫JA) 電子書籍: 日本SF作家クラブ: Kindleストア
非常にチャレンジングな企画だと思う。この2023年において時事ネタとしての速度が激流過ぎ、それでいて先行作が山とあるAIというテーマで、この枚数で、この本数収録されるアンソロジーに原稿書くの、チャレンジ過ぎませんか!? 正直、どっかで読んだなそのネタ、となってしまったり、それどころかアンソロ内で被ってたり(三人被ってるの笑うだろ)、長さ的にもう少し深めていけば色々ありそうだけど深まらないうちに終わってしまったな、と感じた作品が結構あった。
以下、特に印象に残った作品について。結果的にライトよりな作品が並ぶ形になったけど、本書だとその方が長さ的な食い足りなさを残しにくかったからかな。
「準備がいつまで経っても終わらない件」長谷敏司
大阪万博の企画が設計時から開催時までの間にAI技術のせいで陳腐化してしまい、という、AIの話題が激流過ぎというのが正にメタに使われている作品で、その設定のリアルさがかなり良い。言語モデルネタや大阪万博に関するあれこれのそれらしさや、お仕事小説的なアツさ(でもそのお仕事というのはせんべいの掃除かもしれない)とギャグのバランス感、大阪の空気感が良かった。最後そこで落とすのかよというオチだけどなんか、新喜劇かな?みたいな謎の安定感があるようなないような気がして良かった。
「Forget me, bot」柞刈湯葉
AI時代の逆SEOテクニックという、技術的には多分既に一応ある、実際に現実的な出来事になり得るのは半歩先の未来っぽい、というテーマに、同じくらいの現実感と未来感のバランスがあるAI-Vtuberなどなどの小ネタを重ねて時代の空気を作っていくのが上手い。会話劇の小気味よいテンポ感でコミカルに進行していって、最後に捻りを加えたオチでふわっと空気を変えてくるのがとても好き。
「AIになったさやか」人間六度
恋人の死後にその人格を再現するAIと交際を続ける、っていうのはまず百億回既出で、その先のオチにしても読み終わってから説明してしまうと特別真新しくはないと思うんだけど、オチに至るまでの話の運び方がすごく上手く感じた。AIをAIとして見るのに囚われているのは主人公だけではなく読者もそうで、そこを切り替えた瞬間にそれまでの描写が伏線として機能してくる体験が良く出来ていると思った。
「智慧練糸」野﨑まど
Generate……。もう画像ネタのノリが陣内智則的な様式美になってきた。きっとこのアンソロジーを一番楽しんだ作家。
「月下組討仏師」竹田人造
月を消失させたテロ事件(いきなり大きく出たな)を追う国家仏性AI管理局須弥山(なんだよそれは)の戦術仏師である一戒が、過去に因縁のある全窮と仏像兵器で戦う(は?)。いわゆるAIっぽい題材度合いは本書の中で相対的に薄いと思うけど、でもこの作品が一番好きだった。よくわからんけどかっこいい、アツい、みたいな流れをつくり出すのが上手すぎる。仏師の二人の過去の切磋琢磨のアツさから、それを全部回収して載せてくる最後のバトルがめちゃくちゃ良い。イチオシ。