没頭することの話、だと思う。すごく雰囲気が良くて好き。
あるとき元首の視察を迎えたこの都市で、元首が冗談半分に「素晴らしく美しく保たれた街並みだ、だがあの雲だけは汚らしいな、雑巾みたいだ」と言ったことをきっかけに立ち上げられたCloud Management Administration(云彩管理局)に勤める主人公の仕事は、山の中のステーションに一人駐在し、正しい形の雲を作り、時々は広告入りの雲を流し、もしそれらが風の影響で崩れるようなことがあれば古い複葉機で飛び立って強制降水ペレットを撒いて雲を消すこと。けれどほとんど暇なので、「先生」が残していった本を読み続ける毎日。
Cloud Managementが物理的に雲の話であるという言葉遊びや、地方の権力者が中央の権力者の一声に従って過剰なルールを敷いてしまう社会体制への戯画的な皮肉がメインなのかと最初は思いきや、読み進めると思わぬ方向に話が展開していき、どんどん引き込まれてしまった。
まず一番好きなのが、この山の中で一人で過ごしているパートの描写の静けさで、とても心地よい。また、本を長い間読み続けてその深みに沈んでいくことに関する描写も、何というかその静かさ、果てのなさ、ある種の荘厳さを感じさせる。英語でしか読めないので(このSamovarというウェブマガジンは、原語+英訳を掲載するという企画趣旨で、本作も中国語版と英訳版が同時に掲載されている。中国語は自分は読めない)イメージがどこまで読めているかだけれど、この山の上の舞台設定からしてもある種の仙人的なイメージが設定されているのかもしれないなと想像した。後半では対句の話が展開される(多分)のも漢詩の文脈で読まないといけないんだろうなと、これも若干もどかしくなりながら読んだけど、深いところに分け入っていく感覚の表現がすごかった。また、映画好きのキツネを初めとする動物キャラクターもかわいくて良いアクセントになっている。彼らとのシーンも静かな生活の一カットのように思えて、それもまた良さがある。