町かどの穴 ラファティ・ベスト・コレクション1 (ハヤカワ文庫SF) | R A ラファティ, 伊藤 典夫, 浅倉 久志, 牧 眞司 | 英米の小説・文芸 | Kindleストア | Amazon
全部怪しくて面白かったけど、特に印象が残ったものの感想を。
「町かどの穴」
町かどの穴からもうひとりの自分が流れ込んでくる話。ただ、並行世界(?)からやってくるもうひとりたちが一筋縄ではいかないというか、単なるコピーではなくて、同一人物であると認められながら異形であるようなビジュアル的な広げ方と、それに謎解説を与えるディオゲネスのロジックが絶妙で良かった。ナンセンスな呪文も良い。
伴名練「なめらかな世界と、その敵」で引かれてるやつだよねという知識だけあったので、この作品のここをリスペクトしたんだという観点でも読めて面白かった。
「どろぼう熊の惑星」
解説に頷かされた。謎の惑星に降り立った調査隊が原生生物の特殊能力の洗礼を受ける、よくあるSFシチュエーションだけれども、この謎の生物の呼び名が「どろぼう熊」(Thieving Bear)ととぼけているのが良い。読者もまんまと調子を狂わされてしまう。
「山上の蛙」
未開の地の伝承、幻獣との戦いのモチーフを地球外を舞台にしてやっている。この伝承の雰囲気作りが最高でぐんぐん引き込まれてしまった。バトルが良い。
「テキサス州ソドムとゴモラ」
国勢調査に対する感覚の時代背景(?)から怪しい奇想が生まれていて良い。小さな人、怖すぎる。
「夢」
この奇妙さが大好き。収録作で一番好きかもしれない。オチの方向はなんとなく読めていながらもバシッと決めてきてかっこよすぎる。描写の異常性がまとわりついてきて素晴らしい。胃居住性ネズミってどうやったら思いつくんですか?
「カブリート」
カブリート食べたいな(いや食べたくないかもしれない)。語りが上手すぎる。生霊の設定の広げ方、この三つの法螺話(最後の話はいつも本当)の構造、天丼的なたたみ方、好き要素が多すぎる。
「その町の名は?」
消えてしまった町の話。世界改変の痕跡に一人だけ気づいている系の話を、その気づいているのが機械というひねりでやっている。町の名前で爆笑するところが良かった。さいご万能記録遠隔歪曲機が、出番来たか?ってちょっとテンション上がるところも好き。
「われらかくシャルルマーニュを悩ませり」
これも世界改変もので、みんな一度は考える(?)世界改変したら世界改変しようとしていた人たちも改変されるよね系の題材だけれども、基本テキストの使い方とか、〈化身〉の怪しさとかが良い雰囲気を醸し出していて、混乱しながらオチに向かって突き進むのが上手い。スカンクの尻肉だけは勘弁して欲しい。
「完全無欠な貴橄欖石」
やってることはかなりコメディっぽいのだけれど、「現われいでよ」とかの呪文がかっこよすぎる。