03_作品

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都市精彩

腕をかざすと、センサーが正しく機能し、僕を認識する。感じよくくすんだ灰色に近い白の扉が、柔らかい空気音をたててスライドする。部屋の温かい照明が灯り、真っ白い照明の廊下から、かすかにオレンジがかかった室内へ。そう広くはないけれど、気に入ってい...
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自己責任

このごろの季節は日が落ちるのも早くなり、もう空は真っ暗である。男の子は塾からの帰りで、一人夜道を歩いていた。まだ半袖で通している男の子には、少し肌寒い。この長い坂道を上りきれば家につく。さあ、早くおうちに帰らなきゃ。  突然、男の子の背後で...
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血流

若い娘の血はうまい。でももう選んでなどいられなかった。血が騒ぐのだ。ともかく吸わなければならない。目覚めたときから頭が痛く、立ち上がって動く事ももう出来ない。気が狂いそうだ、いや、既に狂っているのか。左腕はすっかり噛み尽くし、手首には骨が覗...
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横断者

スクランブル交差点では、歩行者信号が青になっている時間が普通より長い気がする。スクランブルだと歩行者にとっては青になるまでに時間がかかるからだろうか。だが、「長い間待たせたので、渡る時間も長くしました」と言われて歩行者の持ち時間が長くなって...
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拳銃の神様

男が僕に拳銃を向けていた。 「な、なんですか」 「拳銃の神様だ。いいから入れなさい」と男がマスク越しに言う。  マスクだけじゃない。サングラスにグレーのハンチング帽、服は背広の上にコートで黒ずくめ、危ない匂いがぷんぷんする。確認もせずにドア...
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エスパーモノローグ

私は超能力者だ。読心術もできるし瞬間移動もできる。スプーンはいとも簡単に曲がる。  私は毎朝6時きっかりに清々しく目覚める。というのも、私は毎日寝る前に「私は明日の朝6時に清々しく目覚める」と予言しているからだ。私の予言は外れない。目を覚ま...
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4代目、4台目

僕の体はぶっ飛んでくるくると回る。漫画のように回転し叩き付けられ、ずうんと重いものが体の中でガラガラいって、白いワンボックスが走り去る。当て逃げ、という言葉が浮かび、いや、ひき逃げだ。  左足からとくとくと流れる温かい血で、ズボンが台無しで...
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前兆

雄一は晴れた朝の静かなあぜ道が好きだ。澄んだ空気の中でそこに立っていると体がふっと軽くなるような感じがする。だから朝は学校に早く行く。でも今朝はそれでも一番乗りではなく、教室には綾子がいた。とにかく誰かがいればよかった。綾子は自分の席でうつ...
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発明品ナンバー21

「さあ、実際に試そうではないか」と博士。 「ええ、はやく試してみましょう」と助手。  博士と助手は苦心の末、一年をかけてこの発明品を作りあげた。『何でも見える眼鏡』である。 「しかしせっかくだから、かけたとき何が見えるか先に考えてみようじゃ...
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定例閣議

食糧大臣は、早めに首相官邸閣議室に入っていた。壁の時計では、定例閣議まで十五分。  閣議室の大臣たちは、資料を見直している者、メモを書いている者、くしで身だしなみを整えている者、氷結肉をかんでいる者など様々。氷結肉というのは、アザラシの肉を...
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久しぶり

夢の中で、僕は少年だった。正確には少年に戻っていた。12歳位で、分厚くて固い茶色のコートを着て、毛糸の手袋をして毛糸の帽子をかぶっていた。つまり季節は冬だった。たぶん僕の夢の中だからだろう、冬は僕の考える冬らしい冬だった。それは、簡単にいっ...
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所有者

僕は風呂から上がると、上半身裸のまま、冷蔵庫で冷やしておいた缶ビールを飲みだした。缶ビールなんてものは僕にとっては冷たければそれでいい。その代わり僕は野菜についてはこだわるほうで、そのときかじっていたキュウリも、信頼している産地直送だった。...