【感想】『擬傷の鳥はつかまらない』荻堂顕

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 風俗嬢など、そのままでは部屋を借りたり保育園に子供を入れたりするのに不都合がある人々に偽の身分をつくり出して提供する「アリバイ会社」を営むサチのもとを、二人の少女が訪ねる。しかし少女たちが求めたのは偽の身分ではなく、失踪だった。サチのさらに裏の顔、「雨乳母」と呼ばれる完全な失踪の請負人を頼りにしてきたのだ。サチが請け負う失踪とは、この世界に居場所を失った人間を「門」の向こう――異世界へと逃がすこと。

 ハードボイルドに異世界をぶち込むという意欲作で、尖ったことをやっている。まずハードボイルドとしての筆力がしっかりとあって読ませてくる。でも異世界(どんな異世界かはネタバレっぽいので省略)。特殊設定ミステリなのかというとそれも違うと思う。そのすごいアクロバティックをやって、それで物語がちゃんと成立していてすごいという感想もあるし(新潮ミステリー大賞受賞作ということで、新人賞向きの尖り具合なのだと思った)、それでもさすがにまとめきるのが難しかったんじゃないかという感想もある。設定から必然的に主要登場人物の過去・選択がしっかりと掘り下げられないと説得力を持って描くのが難しいと思うんだけれど、そこが尺の都合か後出しで説明されてしまい気味なのがちょっと微妙だったかもしれない。それでも美しい世界の悲しい美しさみたいなのは刺さってくるものがあったし、結末自体には納得感がある。あとケバブ屋の車便利すぎる。

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