【感想】『オブスクラ 鷲羽巧短篇集』鷲羽巧

オブスクラ 鷲羽巧短篇集 - 鷲はいまどこを飛ぶか - BOOTH
2018年から2022年にかけて、京都大学推理小説研究会の機関誌『蒼鴉城』を中心に発表してきた中短篇を集成した一冊。全7篇で300頁弱の、たいへんボリューミーな作品集となっております。 年末年始のご注文は、三が日明け以降の発送となります。ご...

 BOOTHにて入手。文学フリマ大阪12が初頒布、来月の文学フリマ東京40でも頒布されるようです

 全作面白かった。

 7編のうち3編は既読作なのだが、いずれも再読に足る深さがあり楽しめる。「鴉はいまどこを飛ぶか」は、衰退のうちにある故郷に久々に帰省した大学生・深山くろはが殺人事件に遭うクローズドサークルもの。後輩の名探偵・十文字あやめが鮮やかに事件の真相を言い当てる。(私は犯人当てのことは詳しくありませんが)犯人当てとしての情報の過不足の無さや鴉のモチーフの巧みさ、読まなくていいと書いてあるが読んだ方がいいエピローグの決して過剰にならない爽やかさが好き。この二人の登場作では「鳥類学者の記憶法」も再読だがやはり好きな作品。自分は初読時には先に「鳥類学者の記憶法」を読んでいて、その後に「鴉はいまどこを飛ぶか」を読んだのだけれど、本書収録の順、発表された順、作中世界の時系列の順に読み直すと、「鳥類学者の記憶法」において描かれている二人の信頼関係のベースというものがよくわかるし、それを前提に渡少年と先生との交流がより染みこんでくる。そういう意味で、ラストシーンの後説法は素晴らしいと思う。もう一作の再読作は「象と絞首刑」で、名探偵の助手として名探偵を記録し続けた男の物語。残ったものが勝者である、というテーマは、これぞ小説で行うべき営為だと私は思うので、大好きな題材(好きな構造発表ドラゴンもニッコリ)。

 初読作の中で最も印象深かったのは表題作「オブスクラ」で間違いない。「ぼく」は大学の先輩である多岐が持ち込んだ胡乱な計画にいつものように巻き込まれ、アウグスト・ザンダーの未発見ネガを持つと思しき隠遁した美術評論家に対し、無名の写真家の残したスナップ写真の物語を語り聞かせることになる。「象と絞首刑」で扱われている問題意識と――少しなのかとてもなのか――関係のある、言葉、記憶、物語の問題を写真という切り口に集中させ、一篇をかけて語る作品。終盤のぼくと多岐の二人の緊迫ぶりや無力感、それでも大丈夫だと言い聞かせる、一抹の希望が確かにそこにあると信じる気持ちは、そのまま作者の格闘ぶりに重なって読めてしまう。いや、実際どうかはわからないが、そのように読めるほど真剣味のある作品だと思った。また、文体の演出がよく、シンプルにサスペンスとしてのかっこよさも抜群。

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