【感想】『きずあと/パンダの中には』小島宇良/雨下雫(C1講義室)

 文学フリマ東京38にて入手

 小島宇良「きずあと」は、中学のときに兄を事故で亡くし、そのときに自身の膝についたきずあとをスカートの丈を伸ばして隠している主人公が、留年して一つ年上の同級生・朝美に、きずあとを見せて欲しいと頼まれることからはじまる、二人の関係、青春の話。自分が同じ文学フリマ東京38で留年百合アンソロジーに寄稿していたものだから、留年百合ここにもあるじゃん!!と反応してしまった(本作の二人の関係が百合とカテゴライズしうるのかどうかは作中・作外を通じて明示されておらず、私が勝手に反応しただけです)。でも青春の勢いであることは間違いないと思う。重い要素はあるが、爽やかに読めた。

 雨下雫「パンダの中には」は、主人公の中年男性が、巨大なコウテイペンギンの雛が「パンダの中におじさんが入っている!」と告げる夢を繰り返し見るようになり、どうやら同じ妄執に取り憑かれているらしい同僚女性と上野公園のパンダを見にいくようになる話。パンダのユーモラスな動きを「おっさんが入ってる」と形容するミームネタを題材に、陰謀論的な味わいもあり、妖しい存在に引き寄せられてしまう魅力の味わいもあり(地獄の門の前で待ってる人を見るのが好きなの嫌すぎるだろ)楽しく読めた。

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