CDアルバムと文庫本によるコンセプトアルバム。r-906さんの曲は「パノプティコン」、「まにまに」、「怪電話」などかっこいいスピード感とボカロ的絶唱感がとても好きでよく聞いています。今作はアルバムと小説による作品ということで、それがどういう内容なのかはよくわからないながらも存在を知ってすぐにBOOTHで購入しました(が、第一陣には遅れたので届くまでには結構時間がかかり、その間に音源はSpotifyで聞き込んでました)。でも聞き込んでても、これとセットの小説がどんな内容なのか?はあまりわからなくて、いや動画のやつを読み込めばある程度わかるのかもしれないがネタバレ感あるなと思って動画はあまり見なかったので、だから小説を読んで良い意味で予想を覆されたというか、なんというのか、うわ、小説としても面白いのか!という驚きがあった。
小説「会話記録」は、気がつくと謎の駅のような空間にいる「■」が、一番線の電車に乗ると「僕」に、二番線に乗ると「アタシ」に、三番線に乗ると「ぼく」に、四番線に乗ると「わたし」に、五番線に乗ると「私」になって目覚め一日を過ごす、そのどれにおいてもクラスの「あの子」との関係があり――という、並行世界モノの要素のある中編。共通する要素がないわけではないにせよ、別の人格になっているというのではそこから物語を引っ張っていくには弱いのではという気がするところ、「あの子」サイドに視点を切り替えた後半、四番線への偏りという問題を持ち込んでいるところが小説の展開として切り口を新しく感じて面白い。しかもそれが出発点の楽曲「Catchy !?」に繋がっているのが良くキマっていると思った。これは読み終わってから改めて「Catchy !?」を聞くとすごい(そもそも一番最初に「Catchy !?」を聞いたときに遡って考えると、プラットフォームから乗る電車を選んで、というのが「キャラ作り」的なメタファーなのではなく直截に人格が変わるSF的にそういう設定であったところとか、それでいて「キャッチー」はそのまんま正面のセリフであるところとか……そういうこと!となる)。そして実際、「IV」が楽曲としても正にキャッチーというか、中終盤の展開のキマり具合がめちゃくちゃ良いんだよね。そのパートが「VI」でも他のとクロスして出てきてるのも音楽的な反復と小説の設定が上手く噛み合ってる。すごい。小説、楽曲、歌詞、それぞれの形式の特性がしっかりと活かされていてマルチな形式で創れているのに力を感じる(それでいうと、MVでは目立つ耳も小説では挿画でしか目立たないのとかも、地味にこれすごいと思う)。そして本編の優しい読後感から、解説によっておそらく作者が好きであろう観測とか記録系のメタな視点が挟まったりとか、あとがきも踏まえて「あなたしか見えないの」MVを見直すとIV番ちゃんの笑顔に思わずニヤけてしまうみたいな、事後の楽しみまでしっかりあるのが素晴らしかった。こういう質感のハッピーエンド(?)が好きすぎる!