文学フリマ東京37にて入手。鳩をテーマにした大型アンソロジー。表紙が美しい。ボリュームがすごい。このボリュームをまとめてアンソロジーとして出しているのがその時点で偉業だと思います。以下、特に印象に残った作品の感想。
「はばたき」蜂本みさ
劇的な出来事が起きたことを示す「鳩がはばたく」シーンについて考える男の話。本作の男の身には、客観的にはむしろ劇的な出来事は起きていないのだけれど、その発見の途轍もなさに眩暈がする様子はとても強く伝わってきた。わーっと周囲の情報に圧倒される感じが表現されていると思った。
「ジョナサン」織戸久貴
理科室の鳩の剥製「ジョナサン」を盗み出す少年少女の話。掌編の中にギュッと物語が詰め込まれているのが良い。また、最初の一文と最後の一文はそれぞれ読者を引き込んで世界を広げる威力があって好き。テクを感じさせる。
「現代川柳連作『鳩芝居』」橋元デジタル
鳩に関する現代川柳の連作。意味がよくわからないものも含め(というか大体シチュエーションは謎)、鳩らしいというか、とぼけた表情が良い。「神殿の鳩だけキラ加工らしい」が好き。
「鳩屍に一生」藤井佯
鳩のキョンシー、ハトョンシー使いの異能バトル。鳩のキョンシー、ハトョンシーってなんだよ。色々と笑うけど撫滑ミャ鬼は好きすぎる。あと鶴岡もズルいでしょ。
「鳩小屋騒動」Y.田中 崖
鳩化という現象が流行している世界において鳩化していない少年の話。奇想の話でありながらマイノリティの居心地や行動についての話なのかもしれない。ラストは小気味よさと気味悪さが同居していて良かった。fox in the henhouseならぬcat in the pigeon houseだ(?)。
「鳩の図書館」石原三日月
幼い頃に語り手の曽祖母の元を「鳩の図書館」を名乗る男と鳩が訪れた時の話。書物が生きているという題材自体はよくあるが、それを鳩の帰巣本能によって「図書館」に結びつけているアイデアが良い。曽祖母との思い出の話としても優しくてとてもよかった。