【感想】『王とサーカス』米澤穂信

Amazon.co.jp: 王とサーカス 太刀洗万智シリーズ (創元推理文庫) 電子書籍: 米澤 穂信: Kindleストア

 新聞社を辞めフリーとなった太刀洗万智が、月刊誌の海外旅行特集の取材のために訪れたカトマンズで王族殺害事件に遭遇する。緊張が高まるカトマンズの街で取材を始めた太刀洗だったが、彼女の目の前には新たな死体が。

 いや、すごかった。あらすじとか何も読まずに読み始めたので、そもそも舞台がカトマンズであることも、ネパール王族殺害事件が題材になっていることも、読み始めて衝撃を受けた。まあカトマンズはいいとして、ネパール王族殺害事件の起きた街に偶然滞在していて取材することになった記者を主人公としたミステリというのが、いやそんなの書けるのかよ、という驚きがあった。結果としては、書けていて、とはいえもちろん探偵役はネパール王族殺害事件を捜査することはできないので、そうではないところの事件の話になっていくのだけれど、じゃあネパール王族殺害事件が関係なかったんですかと言われるとそういうことでもなくて、それは『さよなら妖精』が架空の国の話だった当初案を改稿してユーゴスラビアにしたのと近い精神というか、主人公が結末で得る一応の結論ともメタに重なっている。小説の題材にするのもある種のサーカスなのではないか、という問いに向き合ったからこそのこのタイトルであろうし、そういうところも直接の続編ではないと言いながらも『さよなら妖精』と繋がっているのかな、ということを考えた。

 解決編で出てくるのがその二人だろうというのはもう明け透けですらあるのだが(もう冒頭で絶対こいつだろというのがあって、その上でどうして?という動線)、そこで意外性でなにかをするとかではなくて、ひたすら鋭い切っ先を突きつけてくるのがやはりすごすぎると思った。

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