文学フリマ東京37にて入手。架空の神様をテーマにした話。とても面白かった。思ったよりもホラー寄りの話の割合が多かった気がする。
尾八原ジュージ「おまよい様の住む家は」
家に住み着き幸運を与えるが、立ち去られると”反動”がやってくる「おまよい様」の話。
おまよい様の設定や見た目、虫が湧くという嫌な生々しさあたりもさることながら、永介の怪しさであったり魂呼の概念であったりの伏線がピタリとハマる回収具合が絶妙で大好き。そして話をぴったり回収しておきながら嫌な不安で締めくくるのも上手すぎると思った。
紅坂紫「高峰」
奇妙なデジタルノイズのような顔を持つ「高峰」との奇妙な同居と引っ越し。
デジタルノイズの顔、というのがなんだかわからないが不思議な魅力を持ったビジュアル。不思議であたたかい交流の話。前作からの差分で「神様」の広さが感じられて、この二作を読んで、このアンソロジーきっと全部面白いな、と思った。
瀬戸千歳「生まれたばかりの泉」
死者の声を聞くことができる泉の儀式を手伝うというアルバイトに来た主人公。
これめちゃくちゃ好きですね。本書で一番好き。泉の儀式のディテールが、ベタながら良い感じに琴線に触れてくる。有賀さんが弱っていって、巡礼者がおとなしく決まりに従ってくれないかもしれない、という状況の緊張感がすさまじい。しかもその時点では超常の存在を直接目にしたりしてはいなくて、その状態でのこの緊張感がよくて、だからこそのラストの展開が光る。良いとこで終わるのもまた良い。有賀さん好き。
大木芙沙子「お正月さん」
正月に祖父の家に親戚が一堂に会しているとき、私たちが仏間で遊んでいると現れるその人のことを「お正月さん」と呼んでいた。
性質の振れ幅こそあれ普通の人間ではないものを「神様」に据えていたここまでの作品とは違う切り口……のような、そうでもないような。そしてそれなのに怖いような。なんだかすごいものを読んでしまったぞ、という感覚が残る。終盤で急激に冷えていく語りに凄みがある。
犬山昇「デュッセルドルフの神さま」
かつてはドイツでチェロ奏者をしていて今は一人で湖畔に暮らす水子おばさんの手伝いをすることとなった主人公。
これまた違う読み味の「神様」の切り取り方になっていて、アンソロジーとしての完成度が高いし編集もいいなぁと思った。偽物でも神様であるということ。
橋本ライドン「らぶらぶ様」
恋の神様「らぶらぶ様」に祈る女の子とその友達。漫画作品。
漫画が入ってくるのいい。こうして並ぶと小説とは違うメディアだなと思う。
木古おうみ「虚渡しの日」
ほぼ五十年ごとに現れる「虚渡しの神」は、周囲の人々を使って一人を殺す。
そうしてここでまた後味悪いホラーが来る。父親の登場から過去の開示の流れがよすぎて、それなら無理もないという変な納得感を主人公とともに感じることができる(出てきた直後だから、会いに来られたんだよね)。単なる露悪的というかグロい話に留まっていないのが良かった。
鮭とば子「たいか様」
「大禍を呑めば対価を与える神様」である「たいか様」に、親友が選ばれてしまう。
こんなんセカイ系世代に特攻持ちじゃん。ベタだけどぐっと来ちゃった。