玄月「チルドボックス」
近未来の超格差社会大阪で政策によりマッチングし同居する困窮高齢者と若者の話。
重苦しい未来への想像であり、二人の抱えている問題はそう簡単に解けるものではないし、けれどこの二人の間にはいくらかの希望とは言わないがなんだろう、ケアの可能性みたいなものはある……あるのかな。昭和が朦朧とする(?)シーンが圧倒的でよかった。読んだあとしばらく固まってしまった。そしてそれでも生きていれば腹は減る。タイトルがめちゃくちゃ良いな。
紅坂紫「アンダンテ」
故郷であり、「音楽を見捨てた」街である大阪に対する愛憎を抱えた三人のバンドの話。
大阪に対する愛憎、音楽に対する熱がしっかりと伝わってきてすごくよかった。現実の大阪における政治の問題について単なる罵倒をぶつけるのでもなく、揶揄や皮肉によって切断処理するのでもなく、それでも諦めず歩みを止めないという主人公の覚悟が作品のスタンスでもあるように感じられた。それがアンソロジーのトリとなっているのも素晴らしい。
間違いなく大阪でありながらどうにもアメリカっぽいというか、そういうアメリカ舞台の話にリスペクト要素があるのかなと思ったけど、なんかこの世界観だと京都から大阪までピックアップトラック一日かっ飛ばさないと着かなさそう!という雰囲気に痺れる。車椅子というのもいいですね。