【感想】『怪奇短篇集 夜の水族館』阪井マチ、佐々木和泉(紐々書房)

 第三十二回文学フリマ東京にて頒布された同人誌。私はBOOTHで入手しました。

 怪奇短篇集とあるとおり、不条理な怖さや可笑しさに満ちた短い話をたくさん読む事ができる。よかった。以下特に好きだった作品について。

 阪井マチ「アクアリウム聖」は、いやまず題名が不思議で笑えるのだけれど(「聖」は「ひじり」の方である)、夜の水族館で警備員に追われる窃盗犯が追い詰められた先で「聖」に出会い、そのまま水中の〈道〉に引き込まれる。こうして主人公はこの世の種々の媒質の中に存在している〈道〉を延々と駆け続けることになるのだが……。話が展開するにつれ、〈道〉の設定と「聖」に対する印象がぬるっとシフトしていくのがとても良い。結末手前に出てくるものの気持ち悪さがそのクライマックスであり、そこから結末に至ると、「アクアリウム聖」というタイトルの語感の滑稽さと気持ち悪い怖さが奇妙なマリアージュをなして戻ってくるのが何とも絶妙。

 佐々木和泉「世界の終わり vs. 楽しみにしてるweb漫画更新」「世界の終わり vs. オリンピック絶対実施局」の二作は、それぞれコロナ禍的な想像力での終わりつつある世界での滑稽譚。特に自分は「世界の終わり vs. オリンピック絶対実施局」が気に入って、もうこれはタイトルでほぼ面白くなってしまっているしあらすじの説明は終わっているのだが、アポカリプス状況下でのオリンピック絶対実施局広報課の主人公の仕事ぶりを書いている。で、もう、なんだろう、これオチの方向性は途中でなんとなくわかるじゃないですか。わかるんだよ、わかるけどわかった上で美しいから好きでした。もうカロリーメイト出てきた段階でさ、笑うじゃん。

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