【感想】『私たち異者は』スティーヴン・ミルハウザー 柴田元幸訳

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 強烈にミルハウザーであるし、でもこれまでに読んだのとはちょっと違う味付けだと思って読んだ。違う味付けの理由は訳者解説で見事に言語化されており、驚異から日常生活に挿入される小さな異物という微妙なシフトなのだなと思った。

「平手打ち」は、連続平手打ち犯(?)の出現に街全体が不安に飲み込まれていくというのが、こう、「いつもの」感があると同時に、しかしやっていることは平手打ちであるという、スケールが大きいんだか小さいんだか笑えてしまう所もあって、ちょっとメタな楽しみ方かもしれないけど楽しかった。

「闇と未知の物語集、第十四巻「白い手袋」」はまずタイトルがふざけてて良い。第十四巻ってなんなんだよ。それで柱のとこには単に「白い手袋」としか書いてないのかなりじわじわ来たんだけどこれは原書でもそうなのかな。というタイトルのふざけを置いておくと、本書で一番技量を感じたのがこの作品だった。友達の女の子がある日からするようになった白い手袋がどうしても気になってしまう、その手袋の下に一体何があるのか、気になりすぎるあまり関係が変質していってしまい、という、設定は超古典的ながら、ここまで話を膨らませて語られると魅せられてしまう。

「刻一刻」もテイストとしてはある意味近くて、説明したらただそれだけの話(始まる前から終わりを予感してしまう少年らしい感傷……という一億回くらい書き尽くされている題材)をここまで!という驚き、描写の牽引力のすさまじさ。

「The Next Thing」はこれまでに自分が読んだミルハウザーの作品には見られなかったような現代的な要素が感じられて(タッチパネル的なガジェット?とか、詳細は語られないが巨大流通小売業・テック企業への不安みたいな概念とか)そういうところが新鮮でありつつ、結局この街全体が飲まれていく、というエスカレーションの展開は何回も読んだなという「いつもの」感もあって、その混淆が面白かった。ただ、そのエスカレーションが崩壊するのではなくある意味で貫徹してしまうところや、最後のほう主人公の疲弊がメインの語りになっていったのは意外なオチでもあり、そこもまた現代的に思えた。

「私たち異者は」は、上記ここまでに感想を書いたどの作品とも違う方向性で、筋を一言で説明することもできないし、わかりやすいエスカレーションのような構造でもない、複雑な印象を残してくる作品だった。じっくりと一連の語りを読まされる中で異者の存在感が確かに高まってきて、最後には後ろが気になってしまう作品。良かった。

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