【感想】『アイリーンはもういない』オテッサ・モシュフェグ 岩瀬徳子訳

アイリーンはもういない | オテッサ モシュフェグ, Ottessa Moshfegh, 岩瀬 徳子 |本 | 通販 | Amazon

 少年矯正施設の事務員として働き、アルコール中毒の父親を憎み、自分自身の女らしさを嫌悪し、妄想をばかり膨らませ鬱屈した日々を過ごしていたアイリーンが、魅力的な女性との出会いを経て人生を大きく変える話。取り返しのつかない形で。

 ともかくアイリーンの屈折ぶりが恐ろしいほど克明に描写されており、読んでいて相当きつい。なんでこんなものを読まされているんだ!と思った(自分は内容なんも知らずに読み始めたけど、これ体調悪いときとか読まない方が良いよ!)。しかし訳者解説の言及で確かにと思ったのが、それを五十年後の本人が回想する語りとして提示することで(厳密に言えば、回想というよりは基本的にはこのときのアイリーンの一人称の語りなのだが、部分的に先説法的に将来の彼女が顔を出す)絶妙な距離感が保たれていて、なんでこんなものを読まされているんだ!とは思いつつも読み続けてしまうようになっている。自分はそうなった。先説法っぽいのは最初はアイリーンがもういなくなることを提示してカウントダウンすることでhowを読者に考えさせて牽引するみたいな機能を想定して読んでいたんだけれど、終わってみればむしろ、そんな(こんな!)アイリーンが現在ではもう老婆であり、色々あったけれど人生の終盤にいる、ということがある種の安全装置というか、放り出されないための軸足にはなっているのかもしれない。こんな内容を書いておきながらテクいな……。すごい小説。

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