【感想】『Rikka Zine Vol.1 Shipping』 橋本輝幸・編 1/2

Rikka Zine Vol.1 Shipping - Rikka Zine
創刊号の紹介です。Our first volume ever.

 あたらしいSFとファンタジーの雑誌、その記念すべき創刊号。公募枠で短編小説を寄稿させていただきました。この記事では読者として感想を書きます。

 核心には触れないようにしつつも、ネタバレが含まれる。

Amazon.co.jp: Rikka Zine Vol.1 Shipping eBook : 橋本 輝幸: Kindleストア

 電子書籍版は、上記Kindle版のほか、各電子書籍プラットフォームに順次配信中とのこと。

千葉集「とりのこされて」

 飛脚という架空の飛べない鳥が輸送に使われている世界の話。千葉集さんが得意とする(?)架空動物モノであり、兄弟の話でもある。飛脚の生命力や絶妙な法螺具合が読んでいて楽しい。冒頭から「兄がまだ元気だったとき」で始まる語りには時間的射程があって、それがなんとも言えない叙情を生み出しているのが素晴らしい。でも、某経営者の顔がチラつくのは何。

レナン・ベルナルド「時間旅行者の宅配便」(橋本輝幸 訳)

 病気の子供の医療費を稼ぐため、時間旅行版Uber Eats的な仕事をしている女性の話。タイムマシンがごく普通に実現しているにもかかわらず、その技術革新が必ずしも働く人を幸せにしてはいない。そういう現実感と奇想とのバランスがちょうど良くて魅力的。未来においては配達員の待遇が少しだけ改善されていることが示唆されているけれど、それで主人公は希望を持って良いのかわからない、というのも好きなところ。毒がしっかり効いていながらも、明るくてポップな掌編。

木海「保護区」(橋本輝幸 訳)

 人類皆の意識がバーチャル空間にアップロードされた後のバーチャル南京を舞台とする、配達員の仕事をしている主人公の話。少しミステリ的な要素があり、自分は繰り返し読んで全容を把握していくのが楽しかった。短編内で登場人物たちが交錯する作りが巧みで、特に彭箬馨の視点の入れ方・関わらせ方は上手い。謝宛さんのイラストもそういう読み取りが出来るように自分には感じられて(たとえば三人の視線の向き)、良いなぁ~となった。

府屋綾「依然貨物」

 貨物船の沈没後、野良状態で海底を彷徨っている固定脚つき自律コンテナ、通称《カニ》を捕まえる話。ある種のロボットが野生化してしまうというモチーフに、それが本来は運ばれるべき貨物であるという意味づけが語られる終盤が良かった。また、この発掘チームの年齢層の幅やそれぞれのバックグラウンドなど、周辺の書き込みも丁寧。タイトルの言葉遊びも個人的にとても好き。

伊東黒雲「(折々の記・最終回)また会うための方法」

 人類が情報体化した先の未来で日本各地を彷徨いながら記録を続ける主人公の連載最終回。記録・記憶に関する、残したい、伝えたいというコミュニケーションの欲求が感じられるのが好き。情報化しても何をしても結局ままならなさがある、みたいなテーマ、良いですよね。「終了」みたいな当然のように使われるが我々とは異なる語彙もよい。最後のオチもかわいくて明るく、好み。

鞍馬アリス「クリムゾン・フラワー」

 痛覚除去技術が普及しきり、逆に痛みを感じるためのデバイス(?)が嗜好品として密かに愛好されている世界で、それを運ぶ主人公の話。このタイトルからの冒頭一行目の掴み具合がすごい。一応伏せとくけど、なんか擬音語が書いてあるあたりもう笑ったら良いのかどうしたら良いのかわからなくて変な顔になってしまうパワーがある。すごい作品。

稲田一声「きずひとつないせみのぬけがら」

 傷ひとつない蝉の抜け殻(=中にいた蝉はどうやって外に出たのか?)を発見してしまうことから始まる不思議な話。Twitterで言及したとおり、本作は初出の時から印象に残っていた作品で(まず梗概時点で面白くて、でもそこから実作が違う方向に行ってその広がりに驚嘆した)、それをここでしかも改稿でパワーアップした形で読めたのは嬉しかった。カズキの抱えていることは全編にわたって丁寧に書き込まれていて、そこに飛び込んできたヒロシとの出会いから別れまでの反転のダイナミクスがすごくて、最後の問いかけも説得力を持って印象的。前半の中でイチオシの作品です。

阪井マチ「終点の港」

 動く島と沈む島に関する怪奇譚。長回しの語りが次々に繰り出す奇譚の連続のリズムが良い。かつ、それは自分の語っている内容を奇譚だと認識していて、メタ的に奇譚を分析してみせたりもするところも良い。また、何より結末の落ちつかなさというか、不条理を不条理のままにして、それこそ沈んでいって見えなくなってしまうところが好奇心をそそってたまらない。

根谷はやね「悪霊は何キログラムか?」

 透視能力を与えられた調査官たちに舞い込んだ依頼は不審な積み荷の調査で、内容物は『悪霊』だという。あくまで透視能力は科学技術によるもので、けれど今回調べる対象は『悪霊』、それに対してロジカルな解決があり、という、SF、伝奇、ミステリの味が楽しめる。さらに言うと捜査官二人のバディものの色合いもあって、掛け合いも楽しめる。好きな味がいっぱいして嬉しい!という気持ち。オチも自分が一番好きなパターンです。


後半へ続く!

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