推薦作リストに皆月蒼葉『中労委令36.10.16三光インテック事件(判レビ1357.82)』が載っているというのでびっくりしてそのあとしばらく積んであったけど読みました。『中労委令36.10.16三光インテック事件(判レビ1357.82)』はDLsiteで電子版が読めるし、収録した同人誌『紙魚はまだ死なない』もAmazonで買えるよ。
柞刈湯葉「人間たちの話」、伴名練「全てのアイドルが老いない世界」、藤野可織「いつかたったひとつの最高のかばんで」の3作が特に良かった。
円城塔「この小説の誕生」
Google翻訳小説。円城塔カラーが出ていて良かった。一度読んでしまえば、逆にこの題材でここまで深めて書ける人が他に思いつかない。
柴田勝家「クランツマンの秘仏」
秘仏論文小説。秘仏、信仰実験、という材は面白かったし、最後ぐっと引きつけて終わるところが良かった。でも論文の形式を取っていることが良い効果を生んでいるのかという点はちょっと疑問だった。自分が良いと思った末尾だって、論文からはみ出ているわけで。
柞刈湯葉「人間たちの話」
火星地下のメタン生成岩石という地球外”生命”に関する話、ではなく、タイトル通り人間たちの話。とても良かった。あとがきにあるとおりで、SFとは何かというのを考えて書いたのが伝わってくる。アクションもガジェットもないけどSF。その上で主人公と少年の人物像の書き込みがすごかった。本書収録作の中で『ベストSF』を選ぶなら自分はこれ。
勝山海百合「あれは真珠というものかしら」
良かった。本書の収録作の中ではこれだけ既読で、かぐやSFコンテストの最終候補作品が公開されたときに読んでいた。そのときは感想を書き残してはいなかったのだけれど、この作品はよくわからないなりに好きだった(いや、感想をメモっていなかったから後知恵バイアスかもしれない……)。改めて読むと、不思議さ、伊勢物語のモチーフ、SF要素を急に明らかにしつつも切なくポップな感じを遺す終わり方など、良いところがたくさんある素敵な掌編だと思った。
牧野修「馬鹿な奴から死んでいく」
魔術医が魔女と戦う。タイトルがかっこいい(収録作全体的にそうだけど)。このノリは好きだけど、最後どうなったのかわからないのがちょっと納得いかない。
この作品と次の作品については、読んだ直後はこれSFじゃねえだろと思ったけど、そういうことを言うのは良くないと思った。
斜線堂有紀「本の背骨が最後に残る」
紙の本の代わりに本と呼ばれる人が物語の内容を記憶していて、物理で焚書する。いや良かったけどこれってSF……良かった。いやでもこれってSFっていうか……良かった。かなり好き。やってることはまあ法廷モノなんだけどダークなファンタジー的雰囲気作りに凄みがあって良い。もう少しハッピーな結末なら完全に好きだった。
三方行成「どんでんを返却する」
これはちょっと自分にはノリが合わず、なんか滑り続けているように感じられてしまった。
伴名練「全てのアイドルが老いない世界」
タイトル通り、アイドルというものが不老である世界の話。とても良かった。アイドルについては自分は詳しくないけどかなり取材して書いている感じが伝わってきた。そしてSF愛もすごい。根幹の老いないアイドルの設定はむしろファンタジー的な作りなんだけど(それもまた嬉しいんだけど)、そこに溢れるSF愛が加わり、前提のように端々に出てくる未来感のある設定があることによってやっぱりSFになっていると思った。あと確かにKindle版の表紙イラストが良い。キャラクターに力が入っている作品なのでなおさらこのイラストは素晴らしいと思った。本書収録作で一番好き。
麦原遼「それでもわたしは永遠に働きたい」
良かった。労働が嫌なものからもっとやりたいものに反転するとか、脳のリソースを供出することで働くことになるとか、パーツパーツのアイデアはありがちながら、組み合わせ方、ひねり方が非常に上手くて予想外の味が出ていて楽しかった。
藤野可織「いつかたったひとつの最高のかばんで」
最高のかばんの話。とても良かった。導入から展開からオチまで全部好き。刺してくるユーモア。ツッコミに回らさせられながら、なんか居心地が悪くなってしまう風刺の良さ。この不思議さ、不条理さ、ユーモアで進んでいって最後をどう締めるのかと思ったけど、最後まで風刺の効きつつ良い画で終わって最高だった。
堀晃「循環」
小説としてはちょっと退屈に感じた。自伝?として読んだら違う味な気はする。