『Sci-Fire 2021』

 第三十三回文学フリマ東京にて入手。ゲンロン大森望SF創作講座修了生がつくるSF文芸誌で、今号のテーマはアルコール。

 とても良いと思った小説が三作あったので感想を書きます。核心には触れないようにしますがネタバレがあります。

『進化し損ねた猿たち』高木ケイ

 太平洋戦争中のボルネオで、衰弱した白人の俘囚を連行する日本兵が、彼自身もマラリアと飢えに苦しみながら二人きり歩き続ける中、猿の巣の木のうろに溜まった酒を見つける話。作中で厳密にはどの戦争かという明記は無かったと思いますが、描写の内容から太平洋戦争末期と自分は読みました。サンダカン死の行進を連想させる。

 これが冒頭作だったのでいきなり頭をぶち抜かれてしまいました。極限状態の描写の凄みにただただ引き込まれる。からの、「虫だった。」のシーンの牽引力すごすぎ。アイデアは、アルコールというテーマのSF的な切り取り方として王道を行ってると思った。その上で、それをワンアイデアに終わらせない、このボルネオの極限状況、また日本兵と俘囚の関係という題材の取り方、そこから最後の一文に出てくる単語二文字、タイトルの意味、と繋がる構成のすごさ。そこに加えてそれを現出させる淡々とした語りの描写力、と、一読者として欲しいものが満載されていてとても好み。すごい小説だと思った。本誌で一番好きでした。

『恋愛レボリューション12』今野明広

 あらすじの説明がいまいち書きようがないんだけれど、十二歳の少年が、十三歳の女の子と二人で日課の犬の散歩をしていたら、(ここから自分の解釈)その土地の構造上そこに引き寄せられがちな魔に行き逢ってしまい、女の子のお母さんが飲酒しながら魔を討つのに少年も協力する……え?

 どこまで作意なのかわからないけど、ナンセンス的な笑いの向こうに青春があるみたいな読み取りをした。ギャグ(でいいんだよな)が笑える。BY THE WAYのTシャツとか。ただその中に差し込まれる挿話(誰にも言えなかった大切なえっちな秘密の話)がなんか良いんですよね。なんか。このナンセンスな流れの中でされる打ち明け話、どう受け取って良いかわからない、でもそこに真実がありそう、みたいな。自分でも何を言っているのかわからなくなってきました。あと途中で作者名に気づいてめちゃめちゃ面白くなってしまったんですけど、これズルくないですか。最後は思わず続いてんじゃねーよと声出た。良い小説だった。

『掌の怨念』稲田一声

 大昔に「ばけものくじら」の体内に飲まれた村に暮らし、体外に出ることを目指す「ニロ」の話と、ルームメイトから「アルコール消毒で手の常在菌を殺していたことを知って、菌の怨念が怖い」という他愛ないメッセージを受け取った「冬子」の話。

 これはアイデアで頭一つ出ているというか、飲む酒ではなくて消毒用アルコールというお題の捻り方(いやらしくない程度に時事ネタになっているというこの案配がめちゃめちゃ良いと思いました)、からの常在菌、共生関係、『自分』や『生命』の範囲……とかなり手堅いSFの問題設定で、でも話の構成としては「ニロ」の話と「冬子」の話がうまく噛み合っている(というか、噛み合っていない。安易な類比や対比の構図ではない)のが高度だと思った。あと、これは作家読みになってしまいますが、稲田さんの小説に登場するパートナーへの視線というか関係性というかそういうのが好きなのですが、「冬子」パートの二人の書き方がやっぱりよかったです。この短編の限られた字数、簡潔な言葉、しかも基本メッセージのやりとりで回想とかも挟まないのにしっかり二人の性格と関係性が伝わる。それで最後帰宅シーンで冬子”さん”呼びが提示されてその解像度にぶち抜かれてしまったな……。そういう描写と、大戸屋、今池、金山、イオンなど固有名詞の質感が合わさって、「ニロ」パートとの手触りの違いの楽しさにも繋がっていると思いました。良い小説だった。

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