宣伝画像とか、Webサイトとかがかっこよかったので気になっていました。文フリ当日も謎のユニフォームを来た集団が売り子をしており非常に圧があった。メンバー紹介などをみるとデザイン担当とか決まっていてすごいなと。
7編のSF小説を収録。扉ページにかっこいいイメージの抽象画っぽいのが入っているのが素敵。それをめくったところに作品・作者紹介的なコメントがあるのは良し悪しかなと。情報としてはあったほうがいいけど、事前に読んでしまうと若干ネタバレ感もあり、作品を読んだ後に出てきたほうが良いようにも思いました。総じて面白かったので以下個別の感想を書きます。
『𝓢’』髙座創
地球上の多くの生命が滅び、人類も計算機上の意識だけとなった未来。次に起こりうる巨大な災害での滅亡を避けるために計算機上の意識は世界を知ろうとしていた。その一人であるリロは世界の微細な形状を調べていたが、そこで未知の事象を確認する。――『𝓢’』髙座創 #文フリ https://t.co/IxtcOrmixb pic.twitter.com/kN3KVhCr4R
— グローバルエリート 文フリ東京カ-29 (@GlobalEliteSF) April 21, 2019
人類が計算機上の知性になった未来で、長大な時間や極小の距離を扱いながら話が進むSF。考えているシーンが長いと言うか、説明的な説明にかなりの字数が費やされているために、どうしても動きが少ない内容が続くんだけれども、そこからの反動としてのラストシーンが好き。最後の一行がすごく格好良い。
『新生物地理区サニーコート・マツダ』架旗透
サニーコート・マツダに住む僕は朝、シカが闊歩するのと出会う。シカの出現は桐原の実験のせいだ。苦情を言うも取り付く島がない。だからと言って僕らが折れる義理もない。アパートを巡るダメ学生のコメディが始まる――『新生物地理区サニーコート・マツダ』架旗透 #文フリ https://t.co/IxtcOrmixb pic.twitter.com/iGYew0VGG8
— グローバルエリート 文フリ東京カ-29 (@GlobalEliteSF) April 22, 2019
これは予告ツイートの冒頭部分を見た段階で一番面白そうだった作品(冒頭でのつかみがすごい。実際読んでもらうためにそれは重要なことだし、テラフォーミングの単語が予告ツイートに含まれる冒頭2pにギリギリ収めてあるのも狙っているとしたらとても上手いなと思う)。そして実際に面白かった。アパート「サニーコート・マツダ」にテラフォーミングが仕掛けられ、在来種の院生たちは放逐されるか帰化するかを迫られるという無茶な話で、その設定はSFなんだけれどやっていることはコメディであり青春モノ(?)という、とても楽しく読めるエンタメ作品だった。話の広がり方(というか広がらなさ)や終わり方もSF的というよりは青春っぽくて、それもまた好き。
『Upside Down』零F
芸大生の僕は完璧な鉄球を手に入れたことで、殺人事件の当事者となってしまう。その事件は家に転がり込んできた不思議な姉妹をも巻き込む大きな物語の始まりだった。アップサイドダウン、上下逆というタイトルが示す構造と共に楽しんでほしい――『Upside Down』零F #文フリ https://t.co/IxtcOr4HFD pic.twitter.com/jAOwuxqPYu
— グローバルエリート 文フリ東京カ-29 (@GlobalEliteSF) April 23, 2019
表題作。これメンバーで互選とかで表題を決めているんだろうか? そうだとすると結構面白い試みだなと思った。時間モノ。予告文に構造がどうとかと書いてあって冒頭の章タイトルを見たら大体どうなるかわかると思うけどそうなる話。切り刻む系は技術力がかなり必要だなと思って、本作は途中ちょっとサスペンスっぽい要素があったり人物を誤認させる(?)描写があったりするのが牽引力になっていたのが良かったなと思う。
『断末魔コンテスト』元壱路
父が死んだ。それほど悲しくはないぼくがいる。だが、そんな気分に打ちひしがれている時間は長くない。死に際を競う狂気の世界、断末魔コンテストが存在するこの世界では。脱力系青春コメディのシュールな笑いにあなたもきっと叫ぶはずだ――『断末魔コンテスト』元壱路 #文フリ https://t.co/IxtcOrmixb pic.twitter.com/KFmhz872Bo
— グローバルエリート 文フリ東京カ-29 (@GlobalEliteSF) April 24, 2019
一般的な言葉遣いで言うとこの作品はあんまりSFではないと思うんだけど、読んでて一番楽しかったのはこれ。こういうタイトルで出落ち系の作品に弱いんですよね……。冒頭の真面目なふりをしているシーンからの数ページ後の落差で笑わせ(笑うだろあんなん)、無茶苦茶な話を展開していき、最後に冒頭の真面目っぽい部分まで回収してくる無駄のない構成、素晴らしいと思います。
『帰還者に向けたよりよい生活の手引き ――『第三章:コミニュケーション』』維嶋津
現代マナーは言葉によって紡がれる。そうして無意味と思われる行為は意味を示していく。では、もしそれが理解できなかったら?それは大変不躾なことだろう。そんな分断を維嶋津の『帰還者に向けたよりよい生活の手引き ――『第三章:コミニュケーション』』は描き出す。 #文フリ https://t.co/IxtcOrmixb pic.twitter.com/DymeiqqsJl
— グローバルエリート 文フリ東京カ-29 (@GlobalEliteSF) April 25, 2019
一発ネタではありますが、この作品はかなり好きです。これは何が面白いかを書いてもネタバレにしかならないしなんとも言えないけど。ページを捲った瞬間の「そっちかー!」という笑い。やられました。
『AIライツウォッチ』東京ニトロ
格差が進行し溢れんばかりに増えた貧困層。未来の日本で中央分離帯はスラムとなった。そんな社会で必然的に年金は破綻したが、誰もそれは望んでいなかった。解決のために一つのAIが持ち上げられる。そして、社会は未来へと疾走する!――『AIライツウォッチ』東京ニトロ #文フリ https://t.co/IxtcOrmixb pic.twitter.com/W9WpC2x48S
— グローバルエリート 文フリ東京カ-29 (@GlobalEliteSF) April 26, 2019
一番SFのイメージでしっかり読ませる小説で、すごく良かった。かなりの密度と疾走感でSF的近未来の社会が描かれており、謎あり、アクションありでクライマックスに向かって全力で盛り上がっていくので気持ちがいい。ドライヴ感があり強い。強いて言えば、最後の「続く」的な終わり方はちょっと「え?」となってしまう唐突感があったので、別に書かなくても前作読んでる人には伝わるからいいのでは……と思いました。でも前作がめちゃめちゃ気になってきたので読みたい。
『ミヤの眠り、私の朝』杏野丞
誰しもが自分のコピーたる“複体”を持つ未来。それは知識も経験も全てが倍の濃密な世界。その中で私、美弥は複体と馴染めなかった。コピーを受け入れられない私は、六歳のときから十二年間、断絶していた自分の複体との別れを決める――『ミヤの眠り、私の朝』杏野丞 #文フリ https://t.co/IxtcOrmixb pic.twitter.com/cToUY9cOWQ
— グローバルエリート 文フリ東京カ-29 (@GlobalEliteSF) April 27, 2019
合同誌の最後というポジションって、読後感を支配してくるので結構難しいと思うんだけれど、この作品はきっと最後に置くに相応しいと思います。7作中で一番静かで深刻なSFなのかなと思う。ラストシーンの静謐さが良い。あと、終盤のシーンで「誰か一人でも、この席に真体の自分を~」のところはSF設定を使いながら断絶がうまく表現されているなぁと思った。