【感想】『おらおらでひとりいぐも』若竹千佐子

Amazon.co.jp: おらおらでひとりいぐも (河出文庫) : 若竹千佐子: 本

 75歳の「桃子さん」は夫に先立たれ、子供とも疎遠気味で一人で静かに暮らしている。ところが、彼女の心中は実際には賑やかで、故郷である東北の言葉で沢山の心の声たちが口々に意見し、思い出を語り、めまぐるしく思考が巡っていくのであった。

 三人称の語りと一人称の方言の語りが混淆した、この小説のためにはこれでしかあり得ないという特殊な語り方が、唯一無二の作品を作っている。人間は言葉によって思考し形作られていて、そこにとても近いところにいるのが小説という媒体だと思わされた。老いや孤独に相対して、恐れたり、絶望し、かと思えば静まり、また愉快になり踊り出してしまう、心の内の振れ幅や相克が豊かに描かれているのが印象的で、最初から最後まで語りによって連れていかれてしまう、すごい作品だった。

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