【感想】『記憶の対位法』高田大介

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 フランスはリモージュの新聞社で事件記者を務めるジャンゴは、祖父の遺品整理のため山間の寒村・モンマルドゥを訪れる。対独協力者の誹りを受け、晩年はこの村に隠れ住んでいた祖父が残していたのは、大量の古書と二十あまりの黒檀の寄木細工の小箱だった。小箱の中に納められていた紙片に書かれた文言を読み解こうと、事件の取材で知り合った大学院生ゾエの協力を得て、ジャンゴは記憶と歴史を追い求めていく。

 話の内容がとかではなく生活事情により読むのにすごく時間がかかってしまったのだが、じっくりと楽しんで読むことが出来た。いちおうジャンルとしては歴史ミステリということになろうが、しかしミステリといってもわかりやすく大きな謎や事件があってという筋立てではなく(一応、黒檀の箱の中身は謎ではあるがそこに山が持ってきてあるわけではない)、これ収束せずに終わるのかなと一瞬思うくらいなのだが最後にはしっかりとタイトルの元に三者の物語が結びつく。また例によって実在資料の引用も含めた歴史パートは相当に込み入って難しいのだが(それでも音楽史を少しだけかじっていたのでわかることもあり、楽しかった)、後半など特にその歴史話をまるごと掛け合いパートにしてしまう力業もあり(かなり力業だし、しかも話者が三人とか四人のパートもあるのに読めるように成立してるの、このジャンル内に同居してる作風すごい)、硬軟のバランスが絶妙。歴史、記憶、言葉といったものに対する作者の問題意識が、現代のフランスという舞台や社会状況とも接続して、しみじみとした読み応えがあった。とても良かった。

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