【感想】『パンダ・パシフィカ』高山羽根子

パンダ・パシフィカ | 高山 羽根子 |本 | 通販 | Amazon

 特別親しくもないバイト先の同僚・村崎さんが海外で面接を受けに行く間、家にいる動物の世話をして欲しいと頼まれた女性・モトコが主人公。マンションの村崎さんの部屋に入ると、人間の生活感は全くなく、たくさんの小動物や昆虫や魚が飼われていて、モトコは慣れない世話を始める。なかなか帰ってこない村崎さんとの間で交わされるメール、過去の思い出、パンダについて、命を預かること、毒、アヒルのおもちゃ、様々なテーマが変奏される。

 緊張と不安の中にあって何故か落ちつく、心地よい読み味だった。淡々と物事を進めてしまうモトコの落ち着きぶりや、村崎さんのつかみ所のないけれども不思議な魅力のある語り口に惹かれながらも、途中途中に現れる人間の動物に対するエゴや、毒物に関する痛ましい記憶(モトコは自分より一回り上の世代なので、同じ感覚ではないけれど、それでも)、村崎さんからの指示の不穏さ(今風に言えば闇バイト的)にはドキリとさせられる。それほど長くない作品で、舞台や状況に大きな動きがあるわけでもないけれど、小さな挿話の多さのせいなのか濃密で、楽しい読書だった。

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