【感想】”Authority” by Jeff VanderMeer

Amazon | Authority (Southern Reach, 2) | Vandermeer, Jeff, Jemisin, N. K. | Horror

 Annihilationを読んでから、この調子で読んでいってAbsolutionが出る前に三部作読み終えようと思っていたが全然そんな速度では読めなかった。もうAbsolutionは手元にある。早く読みたい。

かっこよすぎ。

 監視機構Southern Reachの新たな局長に着任したControlは、帰還した調査隊員である生物学者を尋問し、過去の調査記録を読み解き、権謀術数渦巻く組織の謎を解いていこうとする。前局長の帰還を信じControlに抵抗する局長補佐Grace、怪しげな仮説に取り憑かれているWhitby、Controlに電話越しに指示を出すCentralの上位者Voiceらに翻弄され、疲弊していくControl。そんな中、Area Xの侵食は既に大きく進行していた。Southern Reach三部作の第二部。邦訳は酒井昭伸訳『監視機構』

 第一部は生物学者の一人称の語りだったのが、第二部はControlに焦点化した三人称の語りになる。やっぱり一番の魅力はControlだと思う。冒頭登場シーンで一瞬だけ仕事できる感を出してるのが面白すぎるくらいダメダメにやられ続ける。決して全面的に無能な人物ではないのだが、今回の事案にあたっては全てが裏目に出ていて、何もさせてもらえない。Graceには終始ボコボコにされ、生物学者も尋問するどころかもはやカウンセリングを受ける側、最終的には母親に泣きつくしかない。ベースがそれであるだけに、ControlがVoiceに一矢報いるシーンは、形勢逆転と伏線回収が相まって興奮するとても好きなシーンだ(催眠暗示に関する伏線はAnnihilationから張られているので注意して読むとVoiceが使っている単語とかである程度わかるのだが、なにしろ細部の書き込みが多い作品なので普通に読むと見逃しがちだと思う、というか自分は日本語で読んでたとき見逃してた。再読するとわかる)。

 調査隊の設定上からして固有名詞や(生物学者以外の人物の)過去が排除されていた第一部と違って、AuthorityではHedleyのような固有名詞が登場し、スーパーギスギス職場のSouthern Reachの各登場人物にはそれぞれの過去があり、歴史があり、また局員やHedleyの市民というモブ的な人物も描かれており、一応の「生活」のにおいがするようになっている。そこがAnnihilationと全く違う読み味でありながら、しかし話が続いていて、サイコホラー的な不気味な恐怖が所々に入ってくる。Southern Reachの建物の陰鬱さの表現のしつこさも好きで、Janitor(unlimited access持ち)と洗剤の下りは良すぎる。最後に洗剤のにおいがしないのが死亡フラグみたいになってるのも良い。

 あと、これも再読によって意識したけど、時系列が割と細かく行ったり来たりする書き方をしていて結構トリッキー。流れを理解した上で読み直すと、Southern Reachでの物語はほぼ一週間に納まっているのに驚かされるというか、Controlの一日が濃すぎる。しかも無意識にGraceの部屋に侵入したり車内で蚊を叩き潰したりその日の一日の会話を全部再現したりしてるんだからそれはヘトヘトになるだろう。それで結構章の区切りが細かいんだけど、その上で最終章のAfterlifeは章を切らずに逃走と追跡をノンストップで書いているところなども技巧的だと思う。

 終盤はエモすぎる。世が世ならこのカップリングでオンリーイベントが開催されているのではないか。一番最後の一文は、Control jumped.だった。これもまたかっこよくて、終盤、ControlはControlであることをやめており、地の文でControlとJohnは使い分けられていて、一部特別な意味を込めているところを除いてはJohnに統一されているところ、最後の最後にControlとなっている。しかし彼に生物学者を追って飛び降りるように促したのは(かつて彼女を尋問しているときに質問を指示してきたのとは違って)The Voiceではなくa voiceであり、それが何なのかは明らかにされない。

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