読書会で読みました。モシュフェグ、多分自分では読みにいかなかった作家のような気がするので読めて良かった。読書会に参加出来るのは本当にありがたいことです。
特に印象に残った三作の話。
Mr. Wu
中年男性Mr. Wuがビデオゲームアーケード(ネットカフェ的な感じか)の店員をしている同年代の女性に恋している話。Mr. Wuは足繁く店に通うが、上手く女性と話すことはできない。近所の娼婦を買う勇気がないのでバスでわざわざ遠くまで出かけてことに及び(服を脱ぐのはシーツに隠れてするとか目は閉じないとか変なこだわりがある)、帰りのバスでは店員の女性のことを思って自己嫌悪する。日に日に募る女性への思いを抑えきれないMr. Wuは偶然も手伝って彼女の電話番号を入手し、メッセージを送ろうと考えるのだが女性を口説くのに最初に送る良い文面を思いつかない。そんなとき隣人との会話でヒントを得た彼が送ったのは「いい年してバツイチで、知的障害の甥と一緒に住んでネットカフェで働いてるってどんな気分? そういうのを夢見てた?」だった。
最悪すぎる。モシュフェグが描く最悪は、基本全部最悪なんだけど最悪にもバリエーションがあって、中でもこのMr. WuはMr. Wuが最悪すぎて、しかも収録順もこれが二作目なものだから参加させていただいた読書会内でもMr. Wuが最悪ベンチマークとして君臨していた。強烈な印象を残す一作。Mr. Wuの妄想が加速して感情が爆発していくところはヤバいです。
Dancing in the Moonlight
クリスマスマーケットで修繕したアンティーク家具を売っていた女性に一目惚れしてしまう主人公の話。もらった名刺に印字された名前でググりまくって悶々とした後、なんとか彼女とお近づきになろうと気を引くために持ってもいない家具の写真をネットで拾って見積もりの相談メールを送る。ところがこの主人公は度を越した着倒れ気質で、衣類はやたら持っているのだが金は全部そこに消え、とんでもないボロアパートに住んでいる(靴をゴキブリから守るためにジップロックに入れているところに優先順位が現れている)。もちろんろくな家具などもっていないし買う金もなかった。クレカの負債は5桁あるし、いまの全財産は現金100ドルと友達にネタでもらったバーガーキングのギフトカード15ドル分。
Mr. Wuと異なり一人称文体だが、中年男性が中年女性に一方的に惚れてしまう話という点では同じで、ちょっと似たジャンルではある。なので好きだった作品を三作選ぶとなったら普通はMr. Wuとこれで二枠消費しないだろという冷静な思考もありつつ、でもこの作品のギャグが肌にあったので、そしてMr. Wuの最悪ぶりの衝撃は忘れられないので、二作選んでしまった。主人公の空回りが笑えて好き。
The Surrogate
中国系の家族が経営する会社で、アメリカ人との商談を上手く進めるためだけに置かれたSurrogate(身代わり)Vice President役の仕事をする白人女性の話。要は顔採用みたいな話だが、楽な仕事で給料もいくぶんもらえるし、社長のLao Tingとその妻からは偽名のStephanie Reillyと親しみを込めて呼ばれ、家族のように扱ってもらえるのだった。
これは複雑な味がする、深みのある短編だと思った。この会社や仕事にはモシュフェグらしい胡散臭さ(会社名Value Enterprise Associationは、逆にそこまで胡散臭い会社名をよく作ったなと関心してしまう)がありつつ、主人公の抱える困難の掴めなさがあり、Lao Tingたちとの交流にはあたたかさがあり、良い話としての一面も間違いなくある(けどやっぱりLao Tingの最後の方もまた胡散臭かったりして、すごいバランスになっている)。結末は少し謎めいていた。要素が多かったので繰り返し読みたくなるような作品だった。