【感想】『結晶するプリズム 翻訳クィアSFアンソロジー』井上彼方・紅坂紫 編

プライド月間にクィアSF短編小説を無料で翻訳&公開したい! - クラウドファンディング READYFOR
2023年のプライド月間(6月)に、世界各地から集めたクィアSF短編小説を無料で翻訳&公開します。 - クラウドファンディング READYFOR

 2023年のプライド月間(6月)に、クィアな翻訳SF短編小説をウェブで無料で公開するプロジェクト。クラウドファンディングで支援させていただいたので、電子版を一足先に読むことができた。

 ちなみに、今月の文学フリマ東京で紙の書籍版が販売されるそうです。

 クィアというテーマにしても翻訳ということにしても、言葉というものに対してとても気を配っていて、なかなかそこに正解とかはないものだと思いますが、その中でも最善を目指して作ろうとする思いがよく伝わってきた。例えば作品中の訳語の選び方や訳注(一番分かりやすいのはtheyとか)であったり、作品外でも冒頭に代名詞に関する注意喚起(本人が指定していればその代名詞を使う、そうでない場合には使わない、決めつけない等)を置いていたりなど。theyの翻訳の問題とか、pronounsについてとか、ある程度知っているともう共有済みの前提みたいになってしまいがちなところをしっかりと言葉にしていくのは、多くの人に届けたいという思いの強さでもあると思った。

 以降、作品の内容に言及します。

 特に印象に残ったのは、イン・イーシェン「鰐の王子さま」(紅坂紫訳)とワニニ・キメミア「夕焼けのブルース」(村上さつき訳)。「鰐の王子さま」は熱帯の島のイスラム教国の王子と鰐の精霊との交わりを描いた作品。寓話的な淡々とした物語進行と幻想的な描写の組み合わせ方が好きだった。特に、犬の血で距離を超えるシーンがめちゃくちゃかっこよくて気に入った。「夕焼けのブルース」はMODと呼ばれる身体改造技術が当たり前になった世界で、けれどこれまでMODには興味がなかった植物学者の主人公が初めて使いたくなるMODが生まれる。短い中にもユナ、マウス、キタの三人の距離感が心地よい。そしてラストシーンの陶然とした解放感! 二者の恋や愛とは違う切り口で、こういった形のポジティブな話も収録されているのは嬉しかった。

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