【感想】『なまものの方舟/方舟のかおぶれ』井上彼方 編

「『なまものの方舟/方舟のかおぶれ』」(VG+ バゴプラ / 文学フリマ東京35 F-15) - 文学フリマWebカタログ+エントリー
文学フリマ東京35(2022/11/20(日) 12:00〜)【VG+ バゴプラ】のアイテム「『なまものの方舟/方舟のかおぶれ』」をチェックしてみよう!

 文学フリマ東京35にて入手。

 生物SFアンソロジー。ボリュームがすごい。表紙がかわいい(うちの子にも好評)。

 以下特に良かった作品の感想。

暴力と破滅の運び手「遠くのお城で、あまたの馬が」

 尖った設定をつっこんできて引き込んで笑わせて連れて行ってエモく終わる、ある種のパターンだと思うんだけどそれが上手く行われているとき自分はめちゃくちゃ好きになってしまう、この作品はそれだった。一者随契で陰陽師とかの時点で実は既に負けてるんだけど、ユニ男が喋りはじめたらもう本格的にダメだった。その上で最後の一ページの幻視の爽やかさよ!

星野いのり「登仙蝶」

 幻想的な生き物(ここでは「登仙蝶」)を活写する作品は本書に数多かったけれど、この作品は俳句(でいいのかな)として、というか短い定型詩であることによってそれが研ぎ澄まされているように感じた。圧縮された表現の中に生々しい「登仙蝶」の姿が迫ってくる。「産卵管の群れ」あたりのちょっとおぞましい感じから、「銀河」「月待ち」「秋思」と雰囲気を変えていく流れがすごい。最後の一句の置き方が綺麗。

稲田一声「ぶるぶるちゃん、お顔を上げて」

 読む前から「ぶるぶるちゃん」が何者なのかめちゃくちゃ気になる良いタイトル。ひと夏の思い出の話、なんだけど、舞台設定に未来というか、まだ現実していないSF的想像力を入れている(この開示の仕方が好き)。一方で、タイトルにもなっている中心的話題はわりと現在の古生物学のネタであるし(本作が、子どもの話なんだけど視点は大人側からであるのも、一世代での想像図の変容と絡みやすいのかもと思った)、大法螺吹き系ではなくサイエンスが好きな人のサイエンスフィクションだなぁという感じがして、生物SFというお題の解釈もピッタリに感じた。

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