水平思考小説アンソロジー『ビストロ・ラテラル』 - Bamboo Storage - BOOTH
ようこそ水平思考の饗宴へ── 当店自慢のスペシャリテは 『ウミガメのスープ』でございます。 12人のシェフが腕によりを掛けた謎を 心ゆくまでお楽しみください。 *** 12人の執筆者それぞれに、オリジナルの水平思考クイズを作問して頂...
文学フリマ東京35の新刊で、作品を寄稿させていただいたアンソロジーです。オリジナルの水平思考クイズと、それをモチーフとした小説を集めた企画。この企画アイデアも良いし、その設定に対して多様な答えが持ち寄られたかなり面白い大ボリュームの一冊になっています。上記で通販実施中とのことですのでぜひ。
直接的な言及は避けるものの、以下の感想にはネタバレが含まれます。
特に好きだったのは、そうしろ/安藤壮史朗「イノシシのステーキ」、mee「世界でいちばん愛してる」、たけぞう「コレクター」。
「Yの嘘」無月彩葉
- いきなりミステリが来た! 構造としてはきちんとミステリ的な話をしていて、それが水平思考クイズの答えの意外性というところと噛み合っていて上手い。良い巻頭作。
- 一方で、ワサ尿病(は?)とかワサビ入りの紅茶(何?)とかの謎設定がギャグとして効いていて(笑うだろ)、殺人事件ではあるんだけど戯画化して読みやすさに繋がっているのが良かった。
- 探偵のモード切り替わるのと、オタク毎回違う設定が好き。
「仲睦まじい恋人達」川渡六文銭
- ちょっと怖い話で、そっかこういう方向性もあるんだ! と思った。一作目から二作目のこの配置の流れ良いですね。
- 純粋に気づきというか、そうか、怖い真実、おぞましい真相、みたいな(この話はおぞましいというのとは少し違うけれど……)路線も水平思考クイズとしてあり得るなと気づかされた。(そういえばサイコパス診断クイズ的なやつも水平思考クイズと近いような気がするな)
- 単純にそれを代行したというだけだと、そこまで怖いかな?という感じを与えておいて、二段目があるのがいいですね。
「あなたに押して貰いたいの」眞崎十一
- これもダークな題材で重ねてくる感じだ。
- これはクイズ部分がクイズとしての完成度がとても高い。小説の内容と切り離してクイズ単体でも意外性と納得感のバランスが良い。
- で、冒頭部がページを開いた瞬間に視覚的に「おっ」と目を引いてくるのもニクい仕掛けになっており、そこでもうクイズの答えとしては暗に示し終わっていて、あとはそこへどうたどり着くか、という構成なのも面白いですね。なんとなくクイズの答えを作品のクライマックスとして最後に明かそうとしている作品が多かったから。
「ママ見て」円件
- これはストレートにホラーで、クイズの意味がわかると怖さがわかるという仕掛けも上手いですね。問題文は怖くないというか何が何だか分からなくて、そこに鏡という線を引くと意味がわかりかつ怖い、よくできてる。
- で、その上で怖さの源というかこの怪異の中身は分からない(怪異だから)怖さがあって、わかるとわからないをうまくコントロールされたような楽しさがある。
「私とみーの話」宇津木健太郎
- クイズの内容を扱うミステリ調の小説で、ただその謎解き中心というよりはメイン二人のキャラクターに着目した作品と読んだ(タイトルもその表明のようだ)。怪奇、ホラー路線が繋がってきていたアンソロジーの構成としてはここでキュッとターンしてて気持ちが良いですね。
- 「みーの人来てる!」好き。
- 結末部は、最初の方の主人公の「誰も何も知らないくせに」がある意味であー子から返ってきた(?)ことで、話せばよかったのかもしれない、もっと向き合うべきなのかもしれない、ということなのかと読んだけれど、主人公の言うとおり母親に期待できるかというとそれは薄いようにも思えるし、というのが印象に残っていて(たとえばその感覚は、主人公が反発し諦めて見ていた商店街の大人たちはより最低な面を晒しているところから来るのかもしれない)、良い意味での複雑さを残した結びになっていると思った。
「帰宅部は今日も帰らない」カレンダー卿
- 仕掛けは定番だけど自分はこの手のはかなり好きなやつ。そこに向かうプロセスもテンポ良く読めた。
- とぼけたオチで不穏に締めるのも好き。
- これクイズが面白くて、メインの筋じゃないんですよね。一回読んだ時、あれ、クイズ解けてなくない!?って良い意味で混乱した。
「イノシシのステーキ」そうしろ/安藤壮史朗
- これはめちゃめちゃ好きですね。
- アンソロジー『破戒』の「日暮海音の金欠」も好きだったので、日暮海音さんまた出てきて嬉しくなってしまった。
- そのときの感想と自分の好きポイントの大きいところはほぼ同じで、ギャグ多めの会話劇の中ででもしっかりロジックを構築しつつ、キャラの魅力でぐっとやって(直接出てこない妹ですらキャラが立っている)、最後ちゃんとオチという、いや完成度高いな。
- また、今回は自分も寄稿させていただいたという身からしてもこの作品は「そうそう!」という感覚が強かった。要因はいくつかあると思うのですが、一つには水平思考クイズを外側から(出題者の意図を)考えている、また道具的に考えているというところが自分の作品のときの考えに近くて、一方的に親近感が持てたのだと思う。
「世界でいちばん愛してる」mee
- う、上手い!
- 作中でも言及されている理由から、ファンタジーは難しいだろうと自分は思っていたんですよね。作中世界の常識が我々から離れていると問題としてアンフェア度が増していくから、と。でもそれを分析して、自己言及的に飲み込んだ上でしっかり作品として完成させていてすごい。
- ファンタジーというジャンル自体が、この私たちとは常識が違う世界や状況を書くもので、けれど全て何もかも常識が違ってしまえば読解が不可能になるので、そのバランスは常に難しい(のだろうと自分はあまり狭義のファンタジーというかハイファンタジー書かないなりに想像していますが)、そこと水平思考クイズのフェアネス問題が上手く噛み合ってるんだなぁと。
- 主人公が受けている試験の設定とかはまさに作中の常識が読者の未知である例の最たるもので、その輪郭を上手く辿ってラストにかけて理解を形成するのが良い。
- ウミガメが出てくるのも小道具としてすごく良い。
- タイトルの使い方好きです。
- リプレイを見て分かりましたが、クイズ単体はファンタジー設定でなくても成立するんですね。それもすごいな。
「キャット・ウオーク・ゴッコ」ヒヤパ
- 地の文の脇道の多さがリアリティラインの良いゆらしかたに繋がってきたり、冗長さとテンポの良さを良い意味で両立していたりして好き。
- クイズとその謎解きのパートが良かった。宝探しからの反転と、二段目の真相の作り方が良い。あと管理人さんのキャラクターが好き。
- 最後の電話の内容は一読だとよく分からなかったところがあるけれどシリーズなのと関係がある……?
「不満な彼女」カリフォルニアデスロールの野良兎
- 会話ギャグパートが面白くてノリがかなり好き。名前ネタの時点で既に面白い。特殊な訓練を積んだコメディアンとか夕飯残したとかのとこが好き。
- クイズの答えが出オチっぽく消化されるのもじわじわ来て良い。
「コレクター」たけぞう
- このホームズとワトスンのコンビはアンソロジー『破戒』で一番好きだった作品なので、また読めて嬉しい。
- ミステリの文脈理解が不足しているので下手なことが言えないですが多分王道のやつで、多重解決の多重構造をキャラクターの追う追われる(?)の関係性に落としているのが上手い。早川の相変わらずな感じからのラストにかけての苦悩めちゃくちゃ良い。前作のキモでもあった反転からここへ繋いでくるのはすごく良い広がりを読めた感じがして嬉しかった。
- クイズが独立してクオリティ高くて(自分は解けなかった)、クイズの内容がそのまま作品になっているわけでもなく、作中でそのクイズが出題されるわけでもなく、まさにクイズを「モチーフにした」小説なのも趣向が凝らしてあって良かった。
「垂直落下する思考人形」笹幡みなみ
- 私の作品を最後においていただいており恐縮です、というのはなんだかテンプレっぽい文句ですが、他の皆さんの作品を読んだら、こんな水平思考クイズ自体に喧嘩売ってるような作品は最後に置かざるを得ないじゃないかとなって、余計に恐縮した。でもアンソロジーの中で水平思考クイズというお題をどう”料理する”か、のバリエーションを増やすことには少なくとも貢献できたかなと……。
- 素晴らしい企画に参加させていただきありがとうございました。主催のたけぞうさん、ご一緒させていただいた皆様に改めて感謝です。